記憶の部屋と髑髏 ページ35
霧が生み出した記憶の部屋で、十八歳の敦は澁澤と向かい合っていた
虎に殺された六年前の澁澤ではなく、妙にぼんやりとして目の光を失った男だ
彼が何故、敦と同じように再生された記憶を眺めているのかは判らない
「そうだ……」
心の奥底に封印していた記憶のすべてを思い出し、敦は声を漏らした
「あのとき僕は爪を立てた、あのとき僕は爪を立てた、あのとき僕は爪を立てた、あのとき僕は爪を立てた、あのとき僕は爪を立てた……」
幾度も幾度も繰り返し、敦は自分を責め立てる
敦と同じように澁澤も呟いた
「あの時私はスイッチを押した……」
澁澤の顔に、六年前と同じ大きな爪による深い傷が現れる
忘れていた記憶のすべてが、蘇っていた
幼い敦を痛めつけた末に反撃を受けて殺されたことも、すべて思い出していた
そもそも六年前、澁澤は何故、敦を狙ったのか
理由は単純だ
「君の異能が、すべての異能者の欲望を導く異能だと聞いたからだ」
「それを誰から聞いたんです?」
敦に問われるままに澁澤が答えた
「フョードルという露西亜人……そしてあの時、私はーーーーー」
「ーーーーーそうです」
ドラコニアに居たフョードルが、記憶を旅する澁澤に頷くように独り言ちた
ドラコニアには、もはや生きている人間はフョードルとAしかいない
床には太宰の遺体が横たわり、先程まで居たはずの澁澤の姿は忽然と消えていた
フョードルは気にすることなく巨大な赤い光球下で手にした髑髏に視線を落とす
それは、リンゴとともに飾られていた髑髏だった
パキリ
髑髏に塗られていた塗料が剥がれる
ペキ パキパキ パキンッ
すべての塗料が剥がれ落ちる
白い髑髏の額には虎の爪痕が残っていた
リンゴとともに飾られていた髑髏は澁澤本人のものだった
「なら、澁澤の正体は…」
髑髏を見ながらAがそう呟いた
「そう……彼が殺された後このコレクションを引き継いだのは、死体から分離した彼自身の異能だったというわけです……」
Aの呟きにフョードルはそう答えた
「成程…頭目(・・)が此処に来た理由が何となく判った」
「そうですか」
フョードルはそう言うと髑髏を掲げ持つ
ドラコニアの隠し部屋が明かされ、其処には多くの結晶体が保管されていた
これらを吸収させれば赤い光球はもっと大きくなるだろう
「死の事実を忘れ、自分を収める部屋を自ら管理する蒐集品
それが今の貴方です……貴方は虎に爪を立てられ、殺されてしまったのです」
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雪華 - ワンピース×たくっちのまぃの恋愛短編集をリクエスト来ましたよ!頑張って作って下さいね! (2018年10月8日 9時) (レス) id: 1286db9797 (このIDを非表示/違反報告)
朱鷺の砂 - こんな作品を読んでいただき、ありがとうございます! (2018年10月7日 22時) (レス) id: c2940fbcc7 (このIDを非表示/違反報告)
ユウナ - 初コメです!小説面白かったです!更新頑張って下さい! (2018年10月7日 21時) (レス) id: f267fe3bd0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:朱鷺の砂 | 作成日時:2018年10月7日 18時