134.行カナイデ…。 ページ25
いつもと変わらない朝。
いつもと違うのは
玄関に用意されたキャリーケースがあること。
今日は翔さんが一週間のアメリカ出張へ行く日。
ネクタイを締め準備万端な翔さんを見れば
世界はモノクロへと姿を変える。
"嫌だ。
行かないで。"
そんな子供じみたことを思ってしまう。
「どうした？
顔色悪い。」
「…え？あ、朝から胃の調子が悪くて…。」
「大丈夫か？
酷くなる前に病院行けよ？」
「……。」
「おい、本当に大丈夫か？」
「え？は、はい！」
全然聞いてなくて
ううん、聞こえてこなくて
適当に返事をしてしまった。
「じゃあ、一週間戸締りはしっかりすること。
なんなら実家帰ってもいいからな。」
「…実家に…帰る？」
多分…
この時の私は
正常な判断が出来ない状態にまで
なってたんだと思う。
実家に帰る＝離婚
なんて普通じゃ考えもしないであろう発想で
それだけ精神的に限界が来てたんでしょう。
黙ってスーツを掴んで泣き出してしまった。
「どうした？」
「……。」
「言わないとワカンねぇよ」
「……。」
「本当に時間ねぇの。な？」
徐々に荒くなる呼吸の中
大きく鼻をすすって
「翔さん、行かないで…」
精一杯声にして言った。
言ってしまった。
翔さんはビックリした顔をしてから
難しい顔に変える。
無理もないです。
だって…仕事に行くな、だなんて…
「…さすがにそれは聞けない頼みだな…。」
「だって…！どうしても…ダメですか？」
分かりきった答えなのに
食ってかかってしまう私。
もう、必死だった。
「あのな、お前と結婚したのは
本当にお前のことが好きだったからだけどな。
仕事が大事だってのも本当。
だから無理を言うなよ…。」
正常な判断ができなかった私は
『仕事が大事』というワードしか入ってこなくて
何かが切れたかのように
ここからは思っていた事が
口から止め処なく出てきてしまったのです。
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作者名：ミイチゴ
| 作成日時：2015年8月18日 22時
