９粒.マネージャー ページ9
玲於「それでさ、５月にダンス部で合宿すんの。新入生オリエンテーションを兼ねてさ。」
A「へぇ...。」
すごい。
合宿って、いかにも強豪校っぽい。
玲於「でもうちの部、マネージャーは基本雇ってないんだよね。だから合宿の時だけ、毎年臨時でマネージャー募集してるらしいんだけど。それを...
中村にお願いしたいなって思って。」
佐野くんの言葉は、我が耳を疑うものだった。
A「わた、し...？」
玲於「うん、中村に。」
じっ、と私を見る佐野くんの目は、“あの人”と違って、全然逸らせなかった。
玲於「やっぱ、ダメ？」
佐野くんの特長ある眉が、微かに項垂れる。
ダメなんかじゃない。
無理なんかじゃない。
折角の佐野くんのお誘い、すっごく凄く嬉しい。
だけど...。
A「どうして私が...。」
玲於「いや、中村帰宅部だから暇かなって...。あっ、いや、暇って言い方は誤解うむか。」
ああ、なるほど。
マネージャーという名の雑用係か。
自分の身分に相応しい答えに、妙に納得していると。
玲於「それに、中村、料理とか裁縫とか得意じゃん。」
その言葉に心臓が跳ねた。
確かに、暗くて運動音痴な私は、人と接することもなくて。
母子家庭だから、自分のことは自分でしなきゃって、自然と家事全般が得意になったんだけれど。
それを佐野くんが知ってるのが凄く嬉しい。
例えば男子が、「中村Aってめちゃくちゃ暗くて、いっつも料理とか裁縫とか、一人でやってんだぜ。」的な会話を、小耳に挟んで知った。
とか、そういうのでもいい。
とにかく、佐野くんが私のことを少しだけでも知ってくれているのが、たまらなく嬉しいの。
玲於「どう、かな...？」
私で良ければ。
声が震えないように意識して、口を開こうとした時。
くるみ「もちろんよ！A、マネージャーになるわよね！」
A「え...？」
バンバンッと私の肩を叩いて、何故か上機嫌なくるみちゃん。
私が言おうとしたのに...。
玲於「いいの？中村？」
佐野くんが私の顔を覗き込むから、慌ててコクコクッと頷いた。
玲於「ホントに？サンキュー！」
佐野くんはニカッと笑った。
佐野くんを盗み見している時に、いつも見てたこの笑顔。
それが私に向けられる日が来るなんて、少なくとも今までの私は想像してなかっただろう。
生きてて良かった。
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作者名：いちご | 作成日時：2018年5月5日 22時
