＃189．晩翠 ページ16
*
「──で、Aはどうなの？」
『何がですか？』
「結婚よ、結婚」
師走ももう末となったある日のアフレコ終わり。12月にしては珍しく、この日は夜中までの詰め詰めスケジュールではなかったため、何年振りだかの朴璐美さんと食事に来ていた。
件の璐美さんによる発言は、来年の年明けに璐美さんが結婚されるというおめでたい話から派生したものだった。
『しませんよ〜、私は。今も恋愛してる場合じゃないですし』
「そりゃあ今は難しいだろうけど、将来的によ〜」
『もう将来なんて言っちゃってる年じゃないですってば』
「Aはまだ若いんだからさぁ。で？相手はいるの？」
『いませんよ、もう何年も恋愛してないし』
「ええ、勿体無い」
『私、世間にも結婚しないって言っちゃってるんで笑』
「色んな意見あると思うけどさ、……私はよ？アイドルだからーって、自分自身まで殺さなくていいと思うけど」
上品にワインを嗜みながら此方を窺うようにして目配せする璐美さんに、私は苦笑いするしかなかった。
同世代はもう遠に結婚して子どもを産んで、立派に育て上げている最中…という人が多い。独身を貫く人はまぁいわば少数派。
仕事柄、同業者に独身は多いけど、それでも何かしら恋愛を楽しんでいる人は多いのだろう。私のように、最近の恋愛話の一つも持っていないという人はなかなかにいない。
『璐美さんはさ、なんで結婚しようと思ったの？』
「ん？私はね、──」
繰り出される話に耳を傾けながら、あぁ私もこんな恋愛ができたら、結婚したいと思う人が現れたら、なんて夢みたいなことを思い浮かべる。
仮に輪廻転生があるのなら、その幸せは来世にまでとっていてもいいのかもしれない。いくつもの幸せの形があって、手から溢れるほど抱え込んでしまっては、元も子もない。
だとしたら、普通に生きて、その中でもしも良い人が現れたのならこっそり想いを秘めながら、その恋を楽しむので十分だと、結局行き着く先はそこだった。
「はいAちゃん、声優陣で結婚するとしたら誰？」
『そんなの考えたことないよ笑』
「当ててあげようか？」
『もう璐美さん酔っちゃってるでしょ、はい、帰ろ帰ろ』
「やだな〜A、璐美さんを舐めるんじゃないよ」
『無駄にかっこいい声で言わないでよ笑』
その後もそんな応酬が続き、結局山路さんに迎えに来てもらう璐美さん。──おめでとうございます。
*
Twitter in January 2020→←＃188．Twitter
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 158人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：r | 作成日時：2024年2月3日 18時
