＃88．正しさの在り方 ページ48
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「お疲れい」
『お疲れ〜』
カランとグラスを鳴らし、喉を潤す。仕事終わり、元々潤くんに誘われていた私はあまり行き慣れない、いわゆる芸能人御用達のお店だろうなとわかる場所にいた。
『なんでこんなVIPが集いそうな店ばっか知ってんの笑』
「なんだよVIPが集いそうな店って笑」
『だって、なかなかこういうところに来んし』
「友達の紹介で来たことがあるってだけだよ」
『潤くん、本当友達多いよね……』
まぁAよりは多いと思う、と私から吹っ掛けた話とはいえ、正論を突きつけられて思わず少しばかり口を尖らす。
そもそも社会人の友達を作るにはどういう風にすればいいのかがわからない。会うのは芸能関係の人ばかりで、本当に仲の良い人以外は仕事仲間としか思えない。だからこそ、芸能人以外の人と友達とはどのようなものなのだろうと考えるときがある。
まぁそれもないものねだりなのだろう。
「Aは業界の友達が多いよね」
『ん〜それも潤くんには負けそうだけど笑』
「そう？でも翔くんも言わないだけで多そうだよね」
『それはわかる、学生時代の友達とかね』
「その辺、俺は芸能界入ってからのが多いから」
他愛のない話の中、お酒はどんどんと進む。
こういった飲みの場では特に、彼は根が真面目なんだろうな、と何回思ったことがあるだろうか。それほどに彼の心は熱いと再認識する。
尖っていた時期もあったが、真面目が故の反動だと私は思っている。尖っていたと言ってももちろん悪事を働くわけではないし、特にこれといって被害はなかった。あの時からすごく優しくしてくれていたし、私の居場所を率先していつも空けておいてくれていたのは潤くんだ。
『変なこと聞くけど、潤くんってさ、いつも人に優しくしてて自分は疲れたぁってなんないの？』
「確かに変なこと聞いてきたね(笑)逆に自分勝手にする方が疲れない？でも譲れない時もあるしそれはAも知ってるでしょ」
『だね。でも譲れないときって大抵潤くんはど正論なんだよ。間違ってないからこそ……っていうのも当事者にはあるんだろうね。傍から見たら負け戦してるようなものやと思わないこともない笑』
あまり争い事は好きではない。だから意見と意見がぶつかった時には、目や耳から脳に入る情報を遮断したくなる。その場から逃げ出したくなる。
だけど、正しいことを正しいはっきりと主張できる強さは目を逸らさずに見ていたい。ずっと近くで。
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作者名：r | 作成日時：2023年4月29日 20時
