＃62．フトコロノカタナ �� ページ20
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〈この日、撮影が終わったのは午後11時だった〉
『さすがに今日は疲れましたね』
「このあとも仕事ですか？」
『このあとはまたレッスン場に篭ろうと思ってます』
「……瀬那さんは仕事をやめようと思ったことはないんですか？」
『ジュニアの時はあったね。やめるつもりでした。でもデビューしてからは考えなかったですね』
「それはやはり仕事がどれだけ大変でも、仕事自体がフトコロノカタナだから、ですか？」
『そうですね。私は周りの人に恵まれているので、特にそう思えるんだと思います』
『どの仕事も人間関係大事じゃないですか。特に私は特殊な立ち位置にいるので、どうしても自分だけじゃどうにもできないこともあって。その度に周りの方々に助けられてきたので』
「その中でも辛い時や逃げ出したい時はなかったんですか？」
『辛い時はありましたよ。というか今でもあります』
『身体的にも精神的にも、人間なので傷つくことだってありますし、だから一時的に何もかもから逃げ出したいときはありましたけど、それがやめたいに直結することはないです』
「瀬那さんはアイドルだけでなく、俳優、声優などとして活躍されていますが、その点については」
『ん〜、少し語弊があって、何でもグループに還元するという目的で個人活動しているので、アイドルの中のっていう、アイドルを一つの大きな括りとして見ていただきたいなと思いますね』
『かと言って、俳優さんや声優さんと仕事をさせていただく際には、アイドルだからという妥協は絶対しませんよ？』
『だからこそ、辛い時期の話に繋がりますが、アイドルという姿勢を崩さずに、個人活動をプロとして全うするという、その自分の在り方に悩んだ時期はあります』
「自分の在り方ですか？」
『自分がわからなくなってしまうんですよ。アイドルなのに他の仕事をしていいのかとか。逆に、他の仕事の場でアイドルを名乗っていいのかとか』
『そこの葛藤が今でも時々やって来るので、それは精神的にまいりますね』
「そんな時はどのように修復していくんですか？」
『そこで人と関わるということに繋がります。相談することだけが修復の手立てではなくて、ただ他愛のない話をすることだけでも癒しですよ』
〈瀬那のフトコロノカタナとは人と仕事。瀬那と人と仕事が交わり均衡を保つことが、瀬那が自分を確立するための条件である〉
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作者名：r | 作成日時：2023年4月29日 20時
