＃56．心配はかけるもの ページ14
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福山side
『だからずっと心療内科通ってるんよ、私』
「ずっとって？」
『もう何年だろ？10年くらいかな』
「休むとかやめるとか考えねえの？」
『潤が言ったんじゃん。お前は最高の同期だって』
あ。それに縛られてるってわけじゃないけどね。と言い訳をするA。今まであったこと、こいつが俺に隠してきたことを聞いているだけで腑が煮えくり返りそうだった。ましてや自称メンタルの弱いAにとって、耐え難いことだったろうと察する。
気付いてやれなかったこと。隠されていたこと。頼ってもらえなかった自分と、頼ってくれなかったAに行き場のない怒りを感じながら、それでも芸能界の最前線で努力し続けて走り続けるAを改めて尊敬した。
「俺ら初めて会ったときも、A何か言われてたよな」
『だね。それを潤が咎めてくれてさ』
「あんときは大変だなくらいにしか思ってなかったけど、そんな言葉じゃ片付けられないくらい、……」
だから聞いて楽しいものではないって言ったやん、と少し悲しそうに辛そうな目をしながら軽く笑うA。病院の硬そうなベッドで横になっているコイツが、ここまで小さく見えたのは久しぶりのことだった。
『どうしたの、いきなり』
「お前どうせ彼氏おらんのやからええやろ」
『……決めつけがひどいなぁ』
「ラジオで俺のこと好きって言ってたしな」
『言ったんやなくて、言わされた、ね』
「どっちでもいい。しばらくこうされてろ」
思わず抱きしめてしまった俺の背中に、ゆっくりと手を回すA。ごめんねと言う声があまりにもひどく震えていて、泣きそうになるのを我慢すると同時に抱きしめる腕に力を入れた。
「……これからは何かあったらすぐ言えよ」
『また慰めてくれるの？笑』
「心配はかけてなんぼやからな」
『こんな潤を見たらみんな惚れちゃうね』
「おいおいそれは嫉妬か？」
『そうかも？』
「うわ、珍しい。ずっと素直なAでいればいいのに」
『考えておく笑』
そんな冗談が言えるようになった頃、丁度柏木さんが帰ってきたところで、もう夜中もいい時間で明日も仕事だからと、「また連絡する」と告げて病室をあとにする。
帰り道、タクシーに乗って車を取りに行こうと携帯を持った手が、小刻みに震えていることに気がついた。一気に緊張感が解けたからだろうか。それともAの抱えるものの多さに怖気付いたのだろうか。俺は冷静さを取り戻すことに必死だった。
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作者名：r | 作成日時：2023年4月29日 20時
