＃55．努力は必ずしも（※） ページ13
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「なぁ、俺には言えよ。何もない方がいいに決まってるけど、今後何かあったらお前また一人で抱え込むやろ？心配くらいさせろよ」
柚ちゃんが上層部に報告しに行ったその間、私と潤との二人きりの空間で潤は口を開いた。
「一応今回の飲み会のメンバーには言ってない」
『そうだった……ごめん、ありがとう』
「けど、多分聞いてくるぞ」
『なんて言って断ってくれた？』
「今日俺ら行けんくなったって」
『そっか…』
「……前にもあったって、何があった？」
『いろいろ』
「色々って？」
こうなると逃げさせてくれないのは分かっていた。心配してくれているのは嬉しいけど、潤に負担はかけたくない。
『聞いて楽しいものやないよ』
「俺が聞いてるんやからええんよ」
『…………初めはジュニアの頃だったかな……』
練習のために事務所に行くと待ち伏せされており、暴言を吐かれることは毎回のようにあった。その中で何か投げつけられたり手を挙げられたりしたこともある。今でこそ事務所で選別されるファンレターも、当時は自分で読むスタイルで、少ないながらも届いたことの嬉しさに手紙を開ければカッターが仕込まれていたこともあった。
高校、大学ではいじめはなかったものの友達は少なかったし、一種の見世物のような存在になっていた。たまに近づいてきたかと思えば、悪口か、誰かと繋がらせてほしいというお願いを言われる。
男性、女性ともにストーキングされたこともあったし、ポストに不気味な手紙を入れられたこともあった。大人になってからも移動車にGPSが仕込まれていたり、実害としては刃物で切り付けられたことも一度だけある。
『でも一番辛かったのはあれかな』
「……ん？」
『団扇。暴言書かれた団扇を見ること』
嵐デビュー当時や、エイトに入りたての頃。もちろん異分子の私は受け入れられず、団扇に暴言がびっしりと書かれていたことは結構なトラウマだ。言葉をわざわざ文字にし、私だけじゃなくてメンバーに顔を見られると分かっていながらそれを実際に突きつけてくるというのだから、それだけ本気だと思った。
自分が傷つけられることより、自分のせいでグループが売れないことの方が余程辛かった。
『だから文句つけられないように全部努力した。歌もダンスもお芝居も声の仕事も勉強も何もかも』
それでも一定数受け入れてもらえないことがある。それはもう仕方のないことだと割り切るしかなかった。
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作者名：r | 作成日時：2023年4月29日 20時
