＃53．必然か（※） ページ11
※少し閲覧注意です
福山side
Aのラジオの収録が終わり、そのまま共に飲み会へ直行する予定だった。そのため車で待っているのだが、一向にAがやってくる気配はない。何かあって遅くなるのであれば連絡はくるだろうし、人を待たせるのが好きではないAにしては珍しすぎる。
「あっ、もしもし？A？何か」
『…………っ…じゅん、助けて…』
携帯から聞こえてきた言葉に、一瞬どきりと胸が高鳴り、それからもずっと鼓動が早く大きくなっておさまらなかった。
「は？い、今どこにいる？」
『ひじょ、かいだん』
「何階？」
『さん』
「っ、わかった今行く」
階段と言われ、頭を過ったのはなぜエレベーターを使わなかったのかということ。わざわざ階段で降りてくる理由なんて思いつかなかった。
「A！！！！！」
荒い息のまま呼吸を繰り返すAに見える限りの出血はないことを確認する。名前を呼ばれても返事はなく、目も今は開いていない。電話を取ることはできたが俺が向かうまでの間で意識を失ったということだろう。
ひとまず救急車に連絡を入れ、聞かれるがままAの症状を答えていく。こんなときに役立てたくなかったが、Aのマネージャーの柏木さんの連絡先を知っておいて良かったと、すぐに連絡を入れた。
「もしもし、福山です」
「福山さん、お世話になっております。柏木です」
「時間がないので単刀直入に」
「え？」
「Aが階段から落ちて意識不明の状態です。救急車は呼びました。どのようにして落ちたかというのはわかりません。俺がついていながらすみません」
電話口で慌てているのであろう柏木さんに、落ち着いてと諭す。救急車には自分が乗ること、病院の行き先がわかったら連絡することを告げ、ひとまず電話を切った。
『……っ』
「A？わかるか？」
『……潤、ごめ…』
「謝ることじゃねぇだろ、どこか痛いとこは？」
『あたま、と、足』
「わかった。何があったか、今言えそう？」
『…………呼び出されて、…そのまま』
「……男？女？」
『おんな、の人』
「ここの人か？」
『………うん』
苦しいのに色々と聞いてごめんと告げると、また目を閉じたA。救急車を呼んで何分経ったのかわからないが、到着までがやけに長く感じる。
ちゃんと温もりのあるAの手を握りながら、今日行く予定だった場への断りの電話を入れようと、片手でスマホを取り出した。
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作者名：r | 作成日時：2023年4月29日 20時
