＃35．お見舞い ページ40
*
『章ちゃん、体調どう？』
「A、ほんまに来てくれたんやぁ、ありがとう」
術後すぐ章ちゃんはICUに入っていたらしい。というのも、仕事でお見舞いの時間がなかなか取れず術後3日目というタイミングでのお見舞いとなってしまったため、チーフマネの修さんから詳細を聞く他なかったのだ。
『顔、腫れちゃってるけど痛くはない？』
「うん、それは大丈夫。熱があるからしんどいけど」
そんなことを言いながら体を起こそうとする章ちゃんに、そのままでいいからと伝える。
「今日、クロニクルの撮影やったやろ？どうやった？」
『とりあえず章ちゃんは仕事でって伝えてあって、イケメンスポーツは、なぜか信ちゃんじゃなくて私が代わりに入った笑』
「そっかぁ、ありがとうなぁ」
『ううん、あれってめっちゃ面白いよな、自分の顔あんななるんやって思ってすごい笑ったわ〜』
「Aすごい顔になってたん？」
『そう、オンエア見てもらったらわかると思うけど、あれ世に出していいんかなって(笑)サバンナのヌーやって言われた』
「ヌー(笑)また絶妙なワードセンスやなぁ」
『やろ？面白いけどやっぱり恥ずかしい』
「女の子やもんなぁ」
『女の子って年齢でもないんやけどね』
「いつまで経っても女の子は女の子やで」
『じゃあ私も章ちゃんも長生きして、毎年章ちゃんに、Aは可愛い可愛い女の子やでって言ってもらお』
「なにそれ(笑)毎年言わなあかんの？」
『うん、約束』
「わかった、毎年言うわな」
ただ章ちゃんに生きていく意味を持ってほしかった。今、彼がどんなことを考えているのか私にはわからないけど、優しい彼だからきっとこんなヘンテコな約束もきちんと守ってくれる。そういう縛り。ただ彼に生きてほしいという私のエゴ。それだけのための約束。
そして私が生きていくための約束であり縛り。
『章ちゃん、生きててくれてありがとう』
「……どういたしまして」
お互いに少しだけ目が潤んだのは気づかないふりをする。これから先、章ちゃんには後遺症という足枷がついてまわるのに変わりはない。それがどれほど重くて苦しいことなのか、私には計り知れない。
それでも、いかにサポートするのか、いかに今を生きてもらうのか、ただそれだけを考えて章ちゃんの隣に立ち続ける。
『で、すばるが……』
ただ二人きりで笑い合うこの空間が心地よかった。それがずっと続けばいい。そう思ってしまった。
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作者名：r | 作成日時：2023年9月26日 18時
