40.干物女もオンナ ページ5
「つーか、これで分かったでしょ？」
「なにが？」
「干物女もオンナってこと。」
「どうせアジのメスだとか言うんでしょ？」
自虐ネタに大爆笑する私をよそに
翔くんは至って真面目な顔をしてんの。
どうしたのよ？
調子でも悪い？
あ、時差ボケ？
しばらく私を見つめて黙ってたと思ったら
「唇…貸せよ？」
「は？」
突然開いた口からは
少女漫画のようなセリフが出てきた。
いやいや、唇貸せって。
どーゆーこと？
そーゆーこと？
チュウってこと！？
「目、瞑れ。」
そーゆーことだ！
「待って待って！
私はただの通りすがりのお隣さんであって！」
「うっせー。
いいから黙れ。」
ちょっと、やだ！
いつからそんなオラオラ！？
これは死んでも目を閉じてたまるか！！
「目、瞑らないのならビール返せよ。」
「はい。完全に閉じましたよー。」
「なんかムカつくけど、まぁいい。」
ああああビールを出すなんて卑怯！
ビールの為に目を閉じる残念な干物女。
そんな干物な私は…
嗅覚はきっといい方。
翔くんの匂いは
シトラスムスクの爽やかな香り。
甘さは無くて男っぽい。
いつもはタバコの香りと共に感じるくらいなのに
今。
すぐ近くで強く感じる。
やっぱりチュウ…されるのかな？
大丈夫かな？
鼻毛出てない？
ねぇ、練習の時みたいに鼻毛出てない？
やだ。
やだやだ！
気になってしょうがない！！
「しょ、…！！」
鼻毛のことが頭の中を支配してしまい
慌てて目を開けると
唇にぬる〜とした感触が。
「わっ！お前！」
「え？」
翔くんが持ってたのはシャネルの真っ赤な口紅。
どうやらこれを唇に塗ってたらしい。
「免税店で買ってきたお土産。
これで少しは女子力上がるだろ？」
「え！？嘘！？
くれるの！？」
「Tバックじゃなくて申し訳ないですけど。」
翔くんってばわざわざ私のために？
スーツ着てキャリー引いて免税店とか
絵になるじゃないのよ。
でも勇気いるよね、男性が化粧品売り場って。
優しいとこあるな、なで肩イケメン。
「あ、ありがと…。」
「どういたしましてー。」って笑う翔くんが
私の唇に親指を当てて
唇のラインからはみ出た口紅を拭う。
その眼差しに
その指先の熱に
迂闊にもドキッとしてしまった。
でも。
「なんか妖怪人間ベラみたいだな。」
なんて安定の干物ディスり。
10秒前のドキッを返せ。
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作者名：ミイチゴ
| 作成日時：2016年3月24日 22時
