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ずるい伊野尾さん ページ16
「もしもし？何かありました？」
「山田さんに謝らないといけないことがあります」
そう静かなトーンで話す伊野尾さん。
いつもと違う様子に、俺は歩いている足を止めた。
「実はバイト、今日までだったんです」
「え？」
「店長には自分で言うから内緒にしてって頼みました」
「なん、で…」
「言い逃げしようと思って！」
少し大きくなった伊野尾さんの声は震えている。
「俺、彼女のこと本当に好きだったんですよ。目を泣き腫らすくらい」
知ってるよ。すごく嫉妬したもん。
「でも、落ち込んでる期間って短かったんです。山田さんがいたから」
それなら、良かった…
「だから、自分でびっくりしました。こんなにはやく心変わりするものなのかって…」
え…？
「好きです。山田さんのことが。男からの告白なんて気持ち悪いだろうけど、最後だから言いたかったんです」
「俺…」
俺も、伊野尾さんのこと…
「だから、言い逃げです！今までありがとう」
「待って！！伊野尾さん！？伊野尾さん…」
勝手に切られた電話を再度かけ直すが、コールがなり続けるばかりで電話にでない。
２回目にかけ直そうとした時は電源が切られていた。
踵を返して駅に走って戻るも、改札にたどり着いた時には終電がいってしまった後だった。
「言い逃げはずりぃよ、伊野尾さん…」
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作者名：雨のち雨 | 作成日時：2024年1月28日 16時
