短編ymin (ページ41)

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「お、お邪魔します」

玄関について、そう言うと

「自分の家なんだよ」

と笑われた。

そうか。そうなんだよな。覚えてないけど。

山田が１通り部屋の説明をしてくれて、
本当に一緒に住んでんだなぁって実感した。

「山田さ、俺といるのしんどくない？」

「え？どうして？しんどくないよ？」

「だって、俺、付き合ってた記憶ないんだよ？お前にとって失礼だし、その…つらいじゃん」

俺だったら悲しい。俺しか覚えていないなんて嫌だ。
一緒に住むなんてなおさらじゃん。

「んー…また好きになってもらえるよう頑張れば良いし、覚えてないと思うけど、俺、伊野尾ちゃん落とすために本当に頑張ったからね？男落とすなんてマイナスからのスタートみたいなもんでしょ？」

山田は、本当に大変だったんだから、と楽しそうに笑う。

「だから、覚悟しといて。今日から本気で落としに行くから」

顔はいつもの笑顔だけど、目の奥はとても真剣で
なぜか俺の心臓がドキドキしてる。

「強いね、山田は」

「はじめて告白したときなんか、あんた冗談だと思って手叩いて笑ったんだよ。少女漫画みたい！きゃー！！ってふざけ出してさ」

えぇー…最低じゃん俺。

「まじで言ってる…？過去の俺がごめんじゃん…」

てか、なんでそんなやつが好きなのさ。

「まぁ、惚れた方が負けだから俄然俺は燃えたけどね」

自慢げに言う山田はどこか子供ぽくて、
可愛くて少し笑ってしまった。

「とりあえず、お風呂溜めてるから入っておいで。俺はもうすませたからさ」

はーい、と返事をして、
さっき教えてもらったお風呂場へ向かう。

律儀にタオルもパジャマも用意してあった。

これいっつも準備してくれてんのかな…。

お風呂から上がると、
山田がドライヤーを持って待ち構えてた。
仕事が早く帰れたら、できる限り山田が
俺の髪を乾かしてくれていたらしい。

通りで髪がツヤツヤでサラサラなわけだ。

ドライヤーをされている間は顔にパック。
ドライヤーが終わったらクリームを塗られた。

「俺って毎日こんな生活させてもらってたの？」

「うん。でも、俺が好きでやってんの」

俺って幸せ者だったんだなぁ。
なのに何で忘れちゃってんだろ。
なんだか山田に申し訳なくって

「ごめんね」

って謝ったら、

「俺が覚えてるからいいんだよ」

って笑って頭を撫でられた。