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手術の前夜
手紙を書いた。
どこかで聞いたことがある。
人は2度しぬ
1度目は心臓が止まったとき。
２度目はみんなに忘れられたとき。
たろちゃん。
幸せになって欲しい。
あわよくばこれからも一緒にいたい。
でも神様はそれさえも奪っていく
死は理不尽で平等だ。
優しい彼だから忘れろって言っても
ちゃんと覚えて手を合わせてくれそう。
手紙なんて残したら怒るかな。
でも私と彼が一緒に生きた証を
自分の手でどこかに残したい。
なんて、これは綺麗事だ。
きっといつか
たろちゃんは他の誰かを愛して幸せな家庭を築く。
それでいい。
それがいい。
そうわたしも望んでる。
そしたら私のこと忘れてしまう？
理不尽で平等なものは仕方ない
でも、
せめてたろちゃんが生きている間
わたしも一緒に生きたい。
他の誰かが忘れてしまっても
たろちゃんにだけは忘れられたくない。
だから、わたしとたろが一緒に生きた証を残すの。
この手紙を見てわたしのことを思い出して。
屈折してるなんてわかってる。
こんなことしかできない自分がとことん無力だ。
彼とのアルバムはたくさんあって
小さな出来事も大きな出来事も…
たくさん綴られていた。
一つ一つ丁寧に思い出すけど
でも文字に書き出すには限界があった。
書きながら何度も涙がこぼれてその度に書き直した。
大好き。いまでも慎太郎のことだけを思ってる。
私以外の他の人なんてやめて。
そんなの見たくない。
慎太郎と幸せになるのは私だから。
慎太郎、大好きだよ
こんなこと書いてたらたろちゃん読んだ時
ドン引きだろうな…
一度書いた文章を消しゴムで綺麗に消して
ありきたりな言葉を並べる。
今思ってる真っ黒な感情も
消しゴムで一緒に消してくれればいいのに…
ここまできたらありがとうって
ありきたりな言葉しか出てこない。
消した後にそんな言葉を並べる。
たろちゃん幸せになって…
でも、できればそれは私と…
書き終えてもなお、そんなことばかり考えていた。
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作者名：唯音
| 作成日時：2023年2月15日 20時
