ついてない ページ35
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今日はついていない日だった。
日直になったのもそうだけど、
今日に限って仕事の手伝いとかで帰りの準備をする間もなく担任に引っ張られてしまった。
ああ、もう、今日せっかく部活ないのに。時間は5時ちょい出前。まあよしとするけど。
廊下をいくつか渡りながら、今日の飯はなんだろうとかを考える。あんまりガッツリ食べる気分じゃないなあ。
部活がないだけで、全然腹は減らない。
2年1組、と掲げられた教室。
中から、ほんの少し、荒げられた声が聞こえた。なんて言っていたかまでは、聞こえなかったけれど。
……は?
なんだなんだ、と近くに寄ってみると、そりゃあもう、それは、俺にとって大分キツい内容。
……今日はついてない日。
…ほんと、ついてない。
悶々とした気持ちで、腹もいっぱいだ。
気づけば。
その言葉が、俺にはぴったりだっただろう。
ガラ、と教室のドアを開けて、勢いよく二人の視界に入った。
瀬名と、治。
また、ふたり。
瀬名は大きな涙をボロボロ溢して、言葉にもならない声を、ぁ、とあげた。
小さくて、脆い、そんな声を。
目を、見開いていた。どうして、と言いたげな、そんな目を。
「は、」と自分の喉から声が出る。「違うで、すな」なんて、言い訳も聞こえた。
すると瀬名は、しまった、というようにゴシゴシと荒い手付きで涙をぬぐって、勢い任せに鞄を手に取り、駆け出した。
全てが、一瞬のことのようで、
俺の頭は追い付いていない、のに、たったひとつだけ残る、瀬名が泣いていた、という事実。
追いかけ、なきゃ。
「……やめとき」
なんで、治に止められなきゃいけないのか。
くそ、悔しい。
「………泣かせたの」
素朴な疑問。
ただ、返ってきたのは、答えになっているようでなっていない言葉。
「角名が、そばに置いとかんからやろ」
「なあ角名」
それは、励まし。
俺のためだけに言ってくれたこと。
嵐の中でぐちゃぐちゃの俺を、
励ましてくれるたったひとつの声。
トスを呼ぶとき、速攻のとき、掛け声のとき、返事のとき。俺の知ってるどの治でもない、声。
「……頑張ってみても、なんにもかっこ悪くあらへんで」
・
あのあと、当たり前のように瀬名は見つからず、だらだらと体を引っ張って家に帰った。
自分の部屋に着いた瞬間、ど、っと疲れの波がきて、同時に、瀬名の涙に濡れた顔が頭に浮かぶ。
俺は、瀬名になにかしてられてるんだろうか。きっと、プラスな感情なんて与えられてなんかない。
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ル(プロフ) - 投稿された当時からずっと大好きで、ふと思い出しては読みに来てます!!最高です!!残してくださってありがとうございます(> <)!! (7月9日 12時) (レス) id: 6f4d1e3f85 (このIDを非表示/違反報告)
花江(プロフ) - チャイさん» 誤字あったので再度失礼します、既に目を通されていましたらすみません…;;チャイさん〜!!新年からとっても素敵な感想ありがとうございます;;初投稿ですごく拙い文章ですが最後まで読んでいただけて嬉しい限りです;;こちらこそありがとうございました…!!;; (2019年1月10日 0時) (レス) id: cf4a10af8b (このIDを非表示/違反報告)
チャイ(プロフ) - 泣きました、ほんとに泣きました。まず文体がぽわぽわしていて、角名くんと女の子の青くて淡い恋心がとても伝わってきました。それから侑くんが男子高校生って感じですごく好きです。思わずラストは大の字になって倒れました。素敵なお話をありがとうございました! (2019年1月4日 18時) (レス) id: 26170b8b11 (このIDを非表示/違反報告)
花江(プロフ) - ゆうさん» 読んでいただいてありがとうございます…!コメントもとても嬉しいです;;そういっていただけてよかったです、ありがとうございます…! (2018年8月1日 15時) (レス) id: cf4a10af8b (このIDを非表示/違反報告)
ゆう(プロフ) - 両片思いが実るまでが素敵でした…!可愛いお話ですごく好きです! (2018年7月17日 19時) (レス) id: 3710aecabb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:花江 | 作成日時:2018年4月14日 19時