写真【em】 ページ1
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「...、」
彼の喉が、その言葉を出す前に、私は頷いた。
『わかった、』
「...はい、...今日、考えてきたんです、あそこ、行きたいって言ってたでしょう。」
『ありがとう、嬉しい。』
かち、と時計が動く音がやけに大きく聞こえた。
...
私達の一日はいつも海で締められた。
今日も、例外なく。
日が沈む前の海岸はぬるい風が吹いて、日中の暑さ対策をした二人の格好は少し肌寒い。
自然と体は近づいて、ぺたりとくっ付いた。
チャンスだと思った。私は右手を構えた。
『はい、エミさん、笑って、』
「え、ちょっと、」
写真が嫌いなのは知ってたけど、どうしても撮りたかった。画面の中のエミさんはぎこちない笑みを浮かべていた。
「ちょっと、目ぇ瞑ってしまうんですよ、私、」
『これは瞑ってないよ、笑顔ヘタクソだけど』
「一言余計なんですよ、」
二人分の笑い声が浜辺に響いた。
消せ、とは彼は言わなかった。
そんな優しいところに惚れた。
今まで1枚もなかったツーショットに頬を緩ませていると、横からカシャ、と音がした。
彼はしたり顔で此方を見た。
『もう、そうやって、あたしばっかり。』
「いいじゃないですか、」
いつも、彼はそう言う。
彼のフォルダには私一人だけの写真しかない。
それ、寂しくないの、と前聞いたことがある。
自分の好きなもので埋められてるから良いと彼は言った。
『いいの、それで。』
私だけを残していいの、とまた聞いてみたくなった。
彼は憂いた顔をして言う。
「、良いんです、これで。」
『...そう。』
別に、それ以上問うのは止めた。
聞きたいことは沢山あるけど。
これから、離れるのに、あたしだけの写真残して辛くないの?とか。
さっきのツーショット、消せって言わなくて良いの?とか。
最後の1枚があんなぎこちない顔でいいの、あたしのフォルダに残る唯一が、あんなヘッタクソな笑顔でいいの、
ねえ、今日でほんとに最後なの。
でも全部飲み込んだ。
涙も飲み込んだ。
全部全部、我慢するよ、だってあなたが決めたことだものね。
だから、許してね、この写真だけは。
寄せた頭を、優しく撫でてくれる彼の手。
これも、今日で最後。
『今日、楽しかった、ありがとうね。』
「私も、楽しかったですよ。ありがとう。」
やっぱり、締めは海だったね。
___________…
始まりました。lemon cakeです。
ほんわか、ゆるゆると見せかけて、
さらりと終わる恋。
参考:drama/Sori Sawada
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ちぃ汰。(プロフ) - 了解しました。続きで書くのでしたら是非拝見させて頂きます。宜しければ続きである事を表記していただけたら幸いです。楽しみにしています。 (2019年10月5日 14時) (レス) id: 3f437b8d31 (このIDを非表示/違反報告)
絶対匿名03(プロフ) - ちぃ汰。さん» ひたすら毒素の詰め合わせ、と言う短編集にて毒素の話として書こうと思っています。よろしければ閲覧していただけると幸いです。 (2019年10月5日 13時) (レス) id: b60e961817 (このIDを非表示/違反報告)
ちぃ汰。(プロフ) - 絶対匿名03さん» コメントありがとうございます。続きを書いていただけるのでしたら是非拝見したいです。もしよろしければどちらの作品で書かれるのか教えていただけないでしょうか。ありがたいお話ありがとうございます。 (2019年10月5日 12時) (レス) id: 3f437b8d31 (このIDを非表示/違反報告)
絶対匿名03(プロフ) - リクエストではないのですが、シリーズ最初のApple Tarteの49話(キュラソーを濁らせて)の話の個人的な続きを書きたいのですが、よろしいでしょうか?なるべく作風や元の口調等が崩れないように注意するつもりです。ご返答よろしくお願いいたします。 (2019年10月5日 8時) (レス) id: b60e961817 (このIDを非表示/違反報告)
ちぃ汰。(プロフ) - 暁さん» こんなに長く読んでいただけてるのを知れて嬉しかったですよ、本当に! こちらとしては皆様のコメントはとても励みになるのでありがたいです...! 是非またリクエストでもなんでもコメントして下さると嬉しいです。 (2019年9月5日 10時) (レス) id: 3f437b8d31 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちぃ汰。 | 作成日時:2019年6月22日 0時