凋落【ci】 ページ27
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「俺は、欲しい物は手に入れてきた方やと思うねん。」
『そう見えますね。』
彼は不満げな声を上げて、体を少し動かした。私の返事に生気が無いことを感じ取ったのか。彼はこの広い部屋でわざわざ読書中の私の隣を選ぶ。
2メートル近い大きな影は私に子猫のようにすりついた。私の肩に頭を預けてうだうだと凭れかかっている。人と較べてこぢんまりとした体の私には、彼が重たかった。
「でも俺、今ちょっと行き詰まってる。」
『あら、それはそれは。』
「...ちゃんと聞いてる?」
『自慢話でしょう。』
「苦労話や。」
『どちらにせよ、あなた会社で嫌われてそうね。』
「お前なあ。」
はあ、とため息をついて彼は更に脱力した。私は耐えれなくなって唸り声のような声を出す。重くなった肩が天秤の容量でがくりと勢いよく傾いた。彼はそのまま私の片胡座の上に転がり落ちた。全く痛そうではない、「痛。」という声を上げて。
「...慰めてくれへんの。」
『我儘ね。』
「ええやん、そのまま、ほら、撫でやすい位置に、頭があるやろ。」
彼は私の片手を本から取り、ぴたりと自分の頭に当てた。くしゃくしゃというような感覚が気持ちよくてそのままゆるゆると撫でる。文字列とその感覚に、私はひとつ欠伸をした。
「眠たいん?」
『...少し。』
「俺の髪の毛気持ちええやろ。」
『自信満々。手に入れられない男のセリフとは思えない。』
「今はちょっと機嫌がええねん。」
片手で持つにはこの小説は少し重くて、彼の胸の上に小説を預けようとすると、そのまま手ごと小説を彼の手で包まれた。
「...欲しい、なぁ。」
『...。』
返す言葉が見当たらなくて頭を撫でるだけでなく、額に手をひたひたと当てるように慰めてやった。彼は泣きそうな顔で、満された様に笑う。
彼は目をおもむろに開いた。彼の手が私にのびる。頬を2回、ひたひたと触られた。
「...拒否しないんだ。」
『して欲しかった?』
「半々。狡いよね。」
それは、私と彼自身、どちらに向けた言葉だったのだろう。
それを聞かないから、言わないから。
「...誰にも、取られたくない。」
胸元あたりのシャツを、彼は固く握りしめた。
想いの強さから目をそらす。彼が重たくて痺れた太腿を少し動かしたが、彼が落ちる様子は無かった。
器用な男だ、と思った。
____…
きっと二人は落ちぶれていく。
それを甘んじているのもまた、二人だった。
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ちぃ汰。(プロフ) - 雨々さん» ご足労賜り誠にありがとうございます。貴方との出会いはこのシリーズでしたね、拙い私の文章であれど、貴方と繋がるきっかけになれて本当に嬉しいです。一作者としても、一友人としても、精一杯の感謝をここに。 (2021年5月5日 18時) (レス) id: 66362bbae9 (このIDを非表示/違反報告)
雨々(プロフ) - 好きです。ここまでの執筆本当にお疲れ様でございます。あなたの作品に出会えた事、あなた様に出会えた事。本当に嬉しく思います。ありがとうございました。 (2021年5月3日 9時) (レス) id: 0ec44c6a23 (このIDを非表示/違反報告)
ちぃ汰。(プロフ) - 琴葉さん» 毎度毎度、貴方には本当にお世話になっております。この作品が終えれたのも、貴方のお力添えがあってこそ。こちらこそありがとうございます。続編についてはご期待に添えると良いのですが。御足労痛み入ります。精一杯の感謝を足らぬ言葉でここに。 (2021年4月28日 20時) (レス) id: 3f437b8d31 (このIDを非表示/違反報告)
琴葉(プロフ) - 最後の最後まで大好きな文をありがとうございます。そしてお疲れ様でした。もしもまた続編がありましたら、是非とも1ファンとして読ませて下さい。ひとまず、本当にお疲れ様でした。 (2021年4月27日 18時) (レス) id: ba4822cc62 (このIDを非表示/違反報告)
ちぃ汰。(プロフ) - 琴葉さん» お気に召して頂けたなら何よりでした。とんでもない、身に余る言葉の数々をありがとうございます。是非またお越しくださいね、お待ちしております。 (2021年2月27日 0時) (レス) id: 3f437b8d31 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちぃ汰。 | 作成日時:2020年7月3日 0時