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見慣れぬ駅をスイスイと進むA。
随分と歩きなれた様子で人を分ける彼女に、ああ、本当なんだな、なんて。
『ここだよ。』
そう言って開けたドアからは、いつもと違う間取りの部屋が覗く。
けれど、新品の家具に混じる香りは紛れもなくあの家のあの部屋のものだったりした。
白い棚に置かれた、あの時、その時、と思い出せる写真も。きちんとここまで連れられていた。
写真に触れて、Aを振り返る。
俺から見たら随分小さな体。今日は輪をかけ小さく見えた。
『…あの。ごめんね、相談なしに、急に決めたりして。』
「…おん。」
目を逸らしながら困った顔で告げられる言葉。
彼女の手は不安そうに合わせられ、握られている。
『その、頼りっぱなしはダメだなあって思ったから。』
『あたしももっと、しっかりしなきゃと思ってさ。』
遠くなるし。簡単にも会えなくなるし。
相談しなきゃいけない事だったのはよく分かる。と。
そう言う彼女の視線はどんどん下を向く。
『…でも、甘えたくなくて、』
「大丈夫、分かっとるから。」
そう言えばAは顔を上げた。
不安に思わなくていいからと笑えば、彼女は肩をおろしてほほえむ。
ああ、なんだ、なんにも変わってない。
「…俺は、」
「…俺は、その、Aに頼られるの、嫌いやないから」
だから。次は相談してな。
そう言うとまた彼女はいつもの笑みで言う。
『ほんと、トントンて優しいよね。変わんないな。』
変わらないものなんて、ひとつあれば充分だ。
__________…
(この駅が、見慣れたものになるまで通えばいい話。)
(この街が、見慣れたものになるまで通えばいい話。)
(この家が、見慣れたものになるまで通えばいい話。)
(たったそれだけの話。)
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ちぃ汰。(プロフ) - 琴葉さん» 毎度のコメントありがとうございます。お待たせ致しましたことお詫び申し上げます。感想もありがとうございます。期待以上の感想を頂けて言葉もありません。続編前向きに検討しておりますのでどうかその時はよしなに。私もあなたのファンでございます。ありがとちゅき() (2020年5月12日 10時) (レス) id: 3f437b8d31 (このIDを非表示/違反報告)
琴葉(プロフ) - 夜分遅くに失礼致します。更新の方心待ちにしておりました、そして相も変わらず、否それ以上に素晴らしいお話に胸が苦しく、また切なさが込み上げました。良ければ続編をと思いますが作者様の手が動く限りで構いません。私は何時までも貴方様のファンです。とりますき() (2020年5月12日 0時) (レス) id: fea4b79f15 (このIDを非表示/違反報告)
ちぃ汰。(プロフ) - つらら@ちゃげっ娘。鬱紺色 逆音さん» とんでもございません、しっかりと寝てましたすいません...。ありがとうございます...。勿体ない言葉...。 (2020年1月28日 8時) (レス) id: 3f437b8d31 (このIDを非表示/違反報告)
つらら@ちゃげっ娘。鬱紺色 逆音(プロフ) - 夜分遅くに大変失礼でしょうが...これだけ...好きです。 (2020年1月28日 3時) (レス) id: 9e136fef77 (このIDを非表示/違反報告)
ちぃ汰。(プロフ) - 夢川さん» いえいえ、全く気にしておりませんのでそんなにお気を使われないでください!感想頂けてとても嬉しいです。星の子一家に一人要りますよね笑 こちらこそリクエストありがとうございました。よろしければまたリクエストしてくださいね。(お仲間でしたか笑) (2019年11月5日 20時) (レス) id: 3f437b8d31 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちぃ汰。 | 作成日時:2019年10月6日 18時