帰り道を忘れました【ni】 ページ4
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焼け爛れた空が、山の向こうへ消える頃。
私と彼は電車に揺られていた。
席の埋まった車両では並んで座ることは叶わず、互いに扉近くの窓から外を眺めながら静かに揺られていた。
座れなくとも、窮屈ではない。他の客との距離はそれなりにあったので2人だけの切り取られた空間のように感じる。
少し浮世立ったシチュエーションに、ふわふわと揺れる視界と心。盗み見た彼の瞳は夜の迫る空を写して紫陽花色にきらきらと輝いていた。
他の乗客の邪魔にならぬよう、視線に気づいた彼は首を傾げる仕草をしてこちらに笑いかける。
何でもないよ、と首を振って私ももういちど窓の外に目を向けた。
光の塊そのものは山の裏へと消え去っていて、それでもなおこの世界を照らさんとするように明るく輝く西の空に感動を覚えるのは私だけではないらしい。
流れる景色に映る人々もまた、眩しそうにそちらを見やってからまた各々の世界へと戻っていく素振りをしていた。
見慣れた街並み。もう、降車駅は近いことを知る。
「A、」
小声で呼ばれ、そちらを向く。
気づけば彼の指は私の左指の付け根をなぞっていた。
「...今日は帰らなくても、いいんじゃない。」
そんな陰った声で言われたら、私は。
____________…
今日めちゃめちゃ夕焼け綺麗だったので。
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ちぃ汰。(プロフ) - 琴葉さん» 毎度のコメントありがとうございます。お待たせ致しましたことお詫び申し上げます。感想もありがとうございます。期待以上の感想を頂けて言葉もありません。続編前向きに検討しておりますのでどうかその時はよしなに。私もあなたのファンでございます。ありがとちゅき() (2020年5月12日 10時) (レス) id: 3f437b8d31 (このIDを非表示/違反報告)
琴葉(プロフ) - 夜分遅くに失礼致します。更新の方心待ちにしておりました、そして相も変わらず、否それ以上に素晴らしいお話に胸が苦しく、また切なさが込み上げました。良ければ続編をと思いますが作者様の手が動く限りで構いません。私は何時までも貴方様のファンです。とりますき() (2020年5月12日 0時) (レス) id: fea4b79f15 (このIDを非表示/違反報告)
ちぃ汰。(プロフ) - つらら@ちゃげっ娘。鬱紺色 逆音さん» とんでもございません、しっかりと寝てましたすいません...。ありがとうございます...。勿体ない言葉...。 (2020年1月28日 8時) (レス) id: 3f437b8d31 (このIDを非表示/違反報告)
つらら@ちゃげっ娘。鬱紺色 逆音(プロフ) - 夜分遅くに大変失礼でしょうが...これだけ...好きです。 (2020年1月28日 3時) (レス) id: 9e136fef77 (このIDを非表示/違反報告)
ちぃ汰。(プロフ) - 夢川さん» いえいえ、全く気にしておりませんのでそんなにお気を使われないでください!感想頂けてとても嬉しいです。星の子一家に一人要りますよね笑 こちらこそリクエストありがとうございました。よろしければまたリクエストしてくださいね。(お仲間でしたか笑) (2019年11月5日 20時) (レス) id: 3f437b8d31 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちぃ汰。 | 作成日時:2019年10月6日 18時