揺蕩う小舟【ut】 ページ1
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横で寝ている、君の寝顔が大好きだった。
頬にへばりついた髪を退かしてあげたり、肩からずり落ちた布団をそっと直してあげたりするのが好きだった。
耳を澄まさないと聞こえない程の呼吸音を立てて夢に落ちている君が愛おしくて仕方なかった。
忙しさを理由にしたのは悪かったと思ってる。
寂しいと感じていることを知っていながら放っておいたのも。
どんなに疲れても、君がいるのは当たり前だと、月並みな言葉だけど、そう思ってしまったんだ。
君の私物が減っているのを、気づかないほど鈍感じゃないよ、俺は。
寝ている位置が、少しずつ壁へ寄っていってるのも気づいてた。
いつの間にか寝顔がこちらを向いていないことも。
今日、帰ってきたら、君の分の棚は物抜けの空で。
その横に控えめに置かれた大きなバッグにも、ちゃんと気づいていたよ。
それでも、何も言わなかった。だって俺はこう見えて意気地無しだから、君が俺をそうしたから。
二人分のベッドに一人で入るのは久しぶりだな。
静かな寝室に、かちゃ、と扉が開く音がすると俺は目を瞑り、寝たフリをするんだ。
会話してしまったら、きっと引き留めてしまうから。
『...じゃあ、行くね。今までありがとう。さよなら。』
ベッドに腰掛け、肩に優しく手を置いて、たったそれだけ残して彼女は去っていく。
寝室の扉は再び開かれ、そして俺が開くまでは二度とは開かない。
「...ッ」
広すぎるベッドは居心地が悪くて、身を縮こませた。胸が苦しくてシーツを手繰り寄せても、痛みは取れない。
揺れる視界も溢れる水も胸の傷も留まることを知らない。
こんなにこんなに夢中にしておいて、君は俺を同じ舟には乗せてくれなかった。
「...、好きやッ、A...。」
揺蕩う舟はもう遥か彼方にいて、置いていかれた小さな悲鳴は届くはずもなかった。
___________…
悲しいお話でスタートしてしまう私ですがどうぞよろしくお願いします。
タイトルはCanele(カヌレ)です。
※フランス語表記はバグってしまうようなので英語に表記変更しました。
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ちぃ汰。(プロフ) - 琴葉さん» 毎度のコメントありがとうございます。お待たせ致しましたことお詫び申し上げます。感想もありがとうございます。期待以上の感想を頂けて言葉もありません。続編前向きに検討しておりますのでどうかその時はよしなに。私もあなたのファンでございます。ありがとちゅき() (2020年5月12日 10時) (レス) id: 3f437b8d31 (このIDを非表示/違反報告)
琴葉(プロフ) - 夜分遅くに失礼致します。更新の方心待ちにしておりました、そして相も変わらず、否それ以上に素晴らしいお話に胸が苦しく、また切なさが込み上げました。良ければ続編をと思いますが作者様の手が動く限りで構いません。私は何時までも貴方様のファンです。とりますき() (2020年5月12日 0時) (レス) id: fea4b79f15 (このIDを非表示/違反報告)
ちぃ汰。(プロフ) - つらら@ちゃげっ娘。鬱紺色 逆音さん» とんでもございません、しっかりと寝てましたすいません...。ありがとうございます...。勿体ない言葉...。 (2020年1月28日 8時) (レス) id: 3f437b8d31 (このIDを非表示/違反報告)
つらら@ちゃげっ娘。鬱紺色 逆音(プロフ) - 夜分遅くに大変失礼でしょうが...これだけ...好きです。 (2020年1月28日 3時) (レス) id: 9e136fef77 (このIDを非表示/違反報告)
ちぃ汰。(プロフ) - 夢川さん» いえいえ、全く気にしておりませんのでそんなにお気を使われないでください!感想頂けてとても嬉しいです。星の子一家に一人要りますよね笑 こちらこそリクエストありがとうございました。よろしければまたリクエストしてくださいね。(お仲間でしたか笑) (2019年11月5日 20時) (レス) id: 3f437b8d31 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちぃ汰。 | 作成日時:2019年10月6日 18時