【midnight】-1- (ページ17)

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大我君の歌声は艶があって
力強いのに儚さもある幻想的な声だと思った。

「歌うまじゃなかったの。でも頑張った」

本人がそう言うぐらいだから
努力を重ねて重ね続けた結果なんだと思う。

だからこそ、誰かの心に響く。

こんな私の心にも。

「最後少しだけ歌えてたじゃん」
『うん、サビだけ。口ずさんじゃった』
「こうやって広がっていけばいいな」
『広がる？』
「音楽って耳から入るでしょ、で、残る。口ずさむ。記憶に残る。そんな簡単じゃないけど」
『でも、完全に私の耳にも記憶にも残ったよ』
「嬉しい」

『大我君』
「ん？」

『私ね、大我君に出会えて良かった』
「どしたの急に」

『なんだろ。大我君みたいになりたい』
「ええ。俺みたいなのはヤバくない？」
『そんな事ない。好きなものは好き。その為なら努力し続けるってシンプルだけど難しい事じゃない』
「そうだね」

『努力が足りなかったなぁ、好きな気持ちが足りなかったなぁって気付かされた。大我君のおかげで』
「え？」

『ピアノしてたって言ったでしょ？』
「うん」
『私の親、音楽の先生なんだよね。二人とも』
「おぉ、そうなんだ」
『そう。最初は興味なかったけど、始めると楽しくて。でもコンクールとか、演奏会とかトラウマなんだよね。好きだったのに、好きじゃなくなってきて。ただ弾きたい。ただ好きな様に弾きたいだけだったの。けどそれだけじゃダメな事もあるじゃない？』
「あるね」
『でしょ。だから何の為にピアノをしてるか分かんなくなっちゃって』
「・・・」
『触りたくない見たくないって時期もあった』

「今は？」
『好きだよ。ピアノは』

「そっか」
『でももう何年も触ってないかな、音大入るかどうかで親と揉めてから・・・弾いてないかも』

「音大行こうとしてたんだ？」
『そのつもりだったんだけど、心が折れちゃって・・・普通の大学卒業してから逃げるようにこっち出てきたの』
「逃げる？」
『そう』

しまったー・・・こんな話するつもりなかったのに。

絶対・・・引いてるよね。

「いいじゃん、逃げたって」

『え？』

「逃げるのも選択肢の一つでしょ。俺はそれが悪い事だとは思わない」

"おっきくなったらピアニストになるの！"

大我君の言葉に気付けば涙が溢れていた。