君の声が聴きたい② (ページ9)

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声が欲しいページ9

主人公視点になります。
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教室につき、廊下から中の様子を伺う。
恋焦がれた彼の姿がベランダにあった。

(なんて言おうかな。素直に探しにきたなんて言ったら、気持ち悪いかな。)

悩んでも仕方がないと思い、思い切ってドアを開ける。

彼は驚いた顔でこちらを見ていた。

『なにしとるん。後夜祭始まってるで』

案の定理由を聞かれ戸惑ったが、彼に嘘は通用しないと知っているので、素直に探しにきたのだと話した。

『相変わらず、けったいな子ぉやね。まぁちょうどええわ、ちょっとこっち来ぃ』

なにが丁度いいのかわからなかったが、素直に自分もベランダへ出る。

『これ、あげるわ。』

そう言われて差し出されたのは黄色いリボンの付いたバレッタだった。

(！プ、プレゼント。)

驚いて彼を見上げる。
顔を逸らして、耳はほんのり赤い。
急いで震える指でメッセージを送る。

『ありがとう！嬉しい、大事にするね！』

そう送ると彼はこちらを見て優しい顔で微笑んだ。

(つい、追いかけてきちゃったけど、なに話そう、本当になにも考えてなかった。)

そう思いつつ、無言の時間が過ぎる。
でもなにも話をしなくても、彼の隣は気まずくなかった。

『後夜祭はおらんでよかったん』

彼が静寂を破り、そう聞いてくる。

『人の多いところは正直得意じゃないの。それに御堂筋くんの側にいる方が安心する。』

本心だった。友達と一緒にいる時は楽しい。でも彼の側は安全だった。
つかず離れずの距離を彼は保ってくれた。それがとても嬉しかった。

『ふーん。』

彼がなにを思っているかなんてわからない。普段からなにを考えてるのかはわからなかった。なのに、こちらのことはなんでもわかっているようだった。

(そういう、ミステリアスなところも好きなんだけどね。)

『月が綺麗やな。』

(！！！)

夏目漱石の有名な翻訳。彼がそれを知って言ったのか、ただ目の前の景色をそう思ったのかわからない。
彼はリアリストだから、そういう隠喩的な表現をするというのも想像つかない。
だが、仮に彼の言葉が前者だとして、返事をするのは簡単だった。

(私も御堂筋くんのこと大好きだよ。愛してる。)

だが、私は彼のように私の声で思いを伝えたかった。ここでメッセージで返事をしてしまうのはとても嫌だ。私の声を聴いて欲しい。そう思ったのだ。

彼はそこから後夜祭が終わるまでなにも話さなかった。

(あぁ、私に声があったなら『死んでもいいわ』と返すのに。)