一話 ページ1
痛いだけの稽古を途中で抜け出し、少女は身の丈に合わない木刀をその辺に放り出すと怒りのままに障子戸を開け放った。障子戸が痛もうがお構いなしにバンっと勢いの良い音が広い和室に響き渡る。
日本伝統の立派な園庭を一望できる縁側までずんずんと、足を踏み鳴らしながら進む少女はこれまた勢いよくその場に胡坐を掻いた。
少し肌蹴た道着の襟元から覗く首元、袖から伸びる細い腕には年端も行かない少女には痛々しい赤黒い鬱血の痕。
打たれた頬は腫れあがり、口端が切れてしまって血が滲んでいる。滅多打ちとはこの事、庭を睨み付ける眼孔も相俟ってとても女の子がしていい顔ではない。
しかし庭に響く鹿威しの打つ音に、少女の粗ぶった心が俄かに余裕を取り戻す。心なしか先程よりほんの少し表情が柔らかくなっている。
すると鹿威しの音に混じって、塀の外から人の声も聞こえて来た。元気な女の子たちの声だ。
「今日なにして遊ぶ？」
「お人形さん着せ替えして遊ばない？」
「あ！新しい服出たでしょ？私ママに買ってもらった！」
「「いいなー！」」
「ねえお家行ってもいい？」
「いいよ！」
「お気に入りのお人形さん持って来るね！」
「またあとでねー！」
きゃらきゃらと笑いながら、声が次第に遠ざかっていく。
楽しみに心躍らせながら帰路に着く女の子たちの背中を想像した。
少女は知っている。
塀の向こうで笑っている女の子たちの身体に傷はない。顔だって腫れていない。
可愛らしい格好をして、友達と一緒に可愛いお菓子を食べて、毎日好きな事をして遊んで、女の子らしく生きている。
それに比べて…、と少女は自分の格好を見下ろした。
男の子が着るような道着を着て、やりたくもない稽古を強いられ身体は毎日傷だらけ、顔は腫れてボコボコ。
「あたしだって女の子なのに」
口端を噛めばピクリと走る痛み。切れたその上から歯を立てた所為で血がより濃く滲んだ。
口の中に広がる鉄臭さに少女は衝動的に立ち上がると、和室に鎮座する高価な壺の縁を両手で掴み上げた。
「ああァッ！！！」
その場で軽く一回転し、遠心力を利用してまるで砲丸投げのように放り投げた。
バリン！！！！と激しく割れた壺の破片は畳の辺り一面に飛び散り、それは少女の頬を浅く斬りつけた。
もうこの程度なら痛みすら感じない。だが物に当たった分自分のどうしようもない怒りが少し緩和された気がした。
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花恋(プロフ) - 更新再開を心よりお待ちしてます (2021年1月30日 3時) (
レス) id: e938aee02d (このIDを非表示/違反報告)
ハチ公(プロフ) - 花恋さん» コメントありがとうございます。不定期更新ですがまた読んでやってください(^^) (2020年7月29日 21時) (レス) id: 5dc992d6af (このIDを非表示/違反報告)
花恋(プロフ) - とても面白いです！これからどんな展開になるのか今からドキドキです^ - ^ (2020年7月22日 22時) (レス) id: 2b0127518b (このIDを非表示/違反報告)
ハチ公(プロフ) - りさん» コメントありがとうございます。嬉しいです(^^) (2020年7月7日 22時) (レス) id: 55961c2479 (このIDを非表示/違反報告)
り(プロフ) - すごく面白いです、更新楽しみにしています！(^^) (2020年7月7日 5時) (レス) id: 0ffa97bc4b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ハチ公 | 作成日時：2020年7月1日 9時
