207.密室 ページ7
*
それに気付いたところで、Aがここにいる理由も
智哉さんのマネージャーさんと一緒にいる理由も
はっきりとは分からなくて
でもさっきのAは俺らに会って
動揺していたように見えたし
呼ばれて逃げるように去って行った。
メンバーもAがいたのを気にはしてるのに
俺らが喧嘩中だと思われて気を遣われてる。
明確な喧嘩ではないんだけどもう否定するのも面倒。
どうせ智哉さんとは後で顔合わせるんだし
Aとも話す機会あるだろ、なんて考えながら
楽屋を出てトイレに向かおうとすると
前にその小さな後ろ姿を見つけた。
「わっ、れ……」
腕を捕らえると、振り返って驚く。
明らかに俺の名前を呼びそうになったのを
手で口を押さえて止めてた。
「なにしてんの？」
「お、お仕事……？」
「なんで疑問形」
「……人来ちゃうから離して」
「じゃあこっち」
掴んでいたAの腕を引いて連れ出した。
「なんで……」
そう、男子トイレの個室に。
もちろんAは困惑してる。
「ごめんなさい……」
「……なんで謝んの」
「だって玲於くん怒ってるからこんなこと……」
「え？あー、違う。ごめん。怒ってはない」
もやもやしてたけど怒ってる訳じゃないし
近くにあったから入ったけどあまりよく考えてなかった。
俺もこんなとこ入ってどうしていいか分かってない。
とりあえず入った時誰もいなくてよかった……
でもそうこうしているうちに話し声が近付いてくる。
「どうしよ……」
不安そうにするAの唇に人差し指を当てる。
こんな状況なのに狭い個室で
バレないように、というスリルがあって
そのまま指を退いて唇を重ねた。
Aは俺の服の裾をぎゅっと掴んでくる。
スタッフと思われる人の世間話を小耳に挟みながら
その人たちが去るのを音を立てないように待った。
唇を離すとなんとも言えぬ表情で目が合う。
でもすぐに小さく「もう……」と溢して笑った。
「今のうちに出な。……続きは帰ったら」
こくん と頷き、さっと出てくAを見送って
心を落ち着かせてから俺も楽屋に戻った。
肝心なところを詳しく聞けなかったけど
あの人が智哉さんのマネージャーだって気付けたし
智哉さんに関係する何かしらがあるんだろう。
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作者名：はな* | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/ge_hana_/
作成日時：2021年1月17日 1時
