120.強引 ページ20
*
「……玲於くんが一番カッコいい」
俺にしか聞こえないように耳元でそんなこと言ってくる。
こんなとこで言われても下手に返せなくて
ばか、なんて照れ隠しに
思ってもないことしか言えなかった。
「あれ、島村選手に用事あるんじゃなかったの？」
「さっき遥くん連れてくるとき済ませてきたから大丈夫」
「そっか。Aどうすんの？一緒に帰る？」
「わたしは電車で帰ります。芸能人ではないので」
「出してやるから乗ってけよ」
「大丈夫だってば」
「……A、帰るぞ」
「え、ちょっと玲於くん」
「頼んだ！(笑)」
「任してください。メンさんお疲れっす」
「お疲れー」
強引に手を引いてタクシーに乗せる。
一緒に乗ってAの家付近を運転手に告げた。
「……いいの？」
「いーの」
いつまでも不安そうなAには気付かないフリをして
服の下に隠れるように手を握る。
Aの住むマンション近くで支払いをして
俺が先に降りたのでAも「え……」と小さく溢しながら
後ろをついてくる。
もう自分の家なんじゃないかってくらい
慣れた手付きで解錠し、エレベーターに乗る。
誰も来ないのを確認してから
エレベーターに乗ろうとせず
戸惑うAの手を掴んで引き寄せた。
「ちょっ……」
「誰も来ねえから」
俺の胸に飛び込むような状態のまま
扉は閉まり、上がっていくエレベーター。
Aは身体を離そうとしたが
俺が抱きとめているのでそれは叶わない。
誰とも乗り合わせることはなく
Aの部屋の階に到着した。
「着いたぞ」
腕の力を緩めると俺の顔も見ず
すぐに降りて行ってしまう。
目的地は一緒だし、
構わずゆっくり後ろをついていき部屋に入る。
もう玄関にAの姿はなかった。
「A」
リビングのソファーに座るAを見てやっと、
いつもと様子が違うのが分かった。
「おい」
「……」
「無視すんなって」
「してません」
「してんじゃん。どこ行くの」
「……着替えるだけですけど」
なんか怒らせてしまったようだ。
めんどくせぇななんて思いながらも
タクシーの中からちょっと嫌がってたなって気付く。
*
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作者名：はな* | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/ge_hana_/
作成日時：2020年10月17日 7時
