643話 ページ7
『はっ。さすがは世界トップレベルのギーク集団だな』
『ふっ。誉め言葉として受け取っておこう。ファントムとブロットの流出を食い止めるため、現在『タルタロス』第6層と第1層にて、所員が非常用ハッチを手動で閉鎖作業中だ。君たちが脱出次第、ハッチを完全に封鎖する！至急脱出願う！』
職員が説明を終えると同時に、上空から黒い鉄の塊がゆっくりとした動作で下りてきた。
先程説明した『チャリオット』という乗り物だろう。
「急ぎましょうリドルさん」
「ああ……」
先輩たちが『チャリオット』へ乗り込もうとする中、私は足を止めて中心へ視線を向ける。
足元から迫るような心地の悪い底冷え。
一体、何が始まるというのか。背筋を下からなぞられたような寒気が、辺りに満ちていた。
「A、君も早く……A？」
リドル寮長が私の名を呼ぶが、中心に気を取られているせいで生返事すらできない。
痺れを切らしたのか、寮長が声を上げて私の肩を強引に掴んだ。
「A、何をしているんだ。早く脱出を……」
「リドル寮長…………あれは……あれは、なんでしょう」
恐る恐る中心―否、その先の『冥府』の門を指差す。
寮長もつられてそちらへ視線を向ける。
「…………なんだ、あれは」
『リドル？どうかしたの？』
寮長が手にしていたトランシーバーからシェーンハイト先輩の声が流れた。
「下を見てください！なにかが、『冥府』の門から出てきます!!」
視線の先には黒い大きな物体が、『冥府』の門から這い出そうとしていた。
タイタンだろうか……もしくはファントムだろうか。
一同が息を呑む中、シェーンハイト先輩が『あれは、ファントム？』と口にする。
しかしすぐさま違うと否定した。
『あれは………
イデア!!!』
だんだんと物体が姿を現していく。
その姿を目にした途端、皆が目を見開いた。
なぜなら、つい数時間前まで自分たちの前に現れた相手なのだから。
ナイトレイブンカレッジの生徒であり、
イグニハイド寮の寮長であり、
『S.T.Y.X』の所長代理である………
バシャン、と水を弾くような音を立てて闇の中から1人の男が現れる。
ゆらゆらと揺らめくブロットを引き摺りながら男―イデア・シュラウドは不気味な笑みを浮かべた。
「仰るとおり………僕だよ！」
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作者名：フウカ | 作者ホームページ：http naru1
作成日時：2024年1月1日 15時
