【ツイステ】モブなのに、絡んでくるのはなぜ？14 (ページ36)

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672話ページ36

躊躇してしまうのは当然のことでしょう。
先程は短時間だったこともあり、老化自体は全体に流れることなく手首だけで止まった。
仮に長い時間『冥府』に手を入れたとすれば、自分の体はどうなってしまうだろうか。

一体どうすればよいのか。
先輩は『冥府』と自身の手を交互に向けながら視線を彷徨わせる。

刻一刻と迫る決断を前に、私は機体に備わっていた箱に目を付けた。
すぐさま中身を確認すると、あるものを見つける。
非常用として備えていたのでしょう。そこにあったのは何重にも巻かれてある麻の縄だった。

よかった。これならなんとか……

急ぎ縄を腰に巻き付けて、彼らの元へ走り出す。

「ユウくん、これを頼みます！」

強引にそれを押し付けて、私は勢いよく手摺から身を乗り出した。

目指す先はただ一つ。

「ちょっ、A何を……！」

驚きの声を上げるユウくんに、私は落ち着いた声で言った。

「私が縄を引っ張ったらすぐに引き上げてください」

「A、まさか………」

「………絶対に救出しますので。頼みますよ」

不安げな様子の彼を安心させるよう優しく微笑む。
そして両手で握りしめていた手摺を放し、重力に任せて体を投げ出した。

まさか2回も落ちることになりますとは。
ですが、今回の場合は自発的に……ですかね。

数秒も経たないうちに私の体は『冥府』へ飛び込む。
飛び込む瞬間、バチン、と全身に静電気のような衝撃が走る。

眼前に広がるのは奇妙な世界だった。
黄緑色の光が中心を照らす中、その周囲をイワシの群れのように不気味な何かが流れている。
それは紛れもなく死者だ。

―オオン、オオオオンッ

誰かが泣いている。とても苦しそうな声だ。
死者の群れが弧を描くようにゆっくりと地の底へと沈む一方で、その中心に不可解な物体が蠢いていた。

流れていく死者の大群とは違い、こちらに向かって必死に動いている。

あれは―シェーンハイト先輩だ。

ジタバタと動き回る先輩を目にし、すぐさま彼の元へと急ぐ。
水中を泳ぐかのように手を掻き、足をばたつかせて『冥府』の中を泳いだ。

ふと、自身の両手に視線を向けてみる。
先程目にしたハント先輩の時とは違い、私の手は未だに老いていない。
生気を吸われていないのでしょうか。

何故。そんな疑問が浮かぶが、今はそれどころではない。

後少しで手が届く。

もう少し、もう少しで―

ガシッ、と音が鳴った。