671話 ページ35
「クソっ……こなったら……!」
ハント先輩は一度呼吸を整えると、勢いよく自身の手を『冥府』の中へと突っ込む。
だがその瞬間、
「………!?うっ………!」
悲痛の表情を浮かべてすぐさま手を引っ込める。
「ルーク先輩、大丈夫ですか!?」
伸ばした手を押さえる先輩に、ユウくんは慌てて彼の寮服を掴む。機体から落ちないよう自身の元へ引き寄せたままユウくんは声を掛けた。
「ああ、問題ない。ただ……少し違和感を覚えてしまっただけだ」
ハント先輩は神妙な面持ちで手の甲を擦りながら言った。
「違和感、ですか?」
「『冥府』に手を入れた瞬間、指先から手首にかけて電流のようなものが走ったんだ。思わずこれは危険だと感じて反射的に手を引っ込めてしまったのさ」
そう言って先輩は恐る恐る手袋を取るが、その素肌が露わになった途端、私たちは息を呑む。
絹のように真っ白な肌をしていた先輩の手が、今は見る影もない状態だった。
手の甲から太い血管が浮き彫りになっており、しっかりとした5本の指も今は力を入れてしまえばぽっきりと折れてしまう程細くなっている。
そして手の甲全体に皺が現れており、その姿はまるで老人の手のようだった。
「これは一体……」
ハント先輩は目を見張ったまま自身の手を眺めた。
その様子を目の当たりにしたユウくんは「まさか…」と口にする。
「生きた人間が『冥府』に入ってしまえば、その生気が吸われてしまうってこと?」
「それはどういう……」
思わず問い返すと、ユウくんは恐る恐る口を開いて言った。
「これは僕の憶測なんだけど、『冥府』の世界は言葉通り死者の世界だ。勿論そこに生きた人間が踏み込むことなんて禁忌に近いこと。『冥府』そのものが受け入れるはずがないんだ。だけど、もし……そこに生きた人間が入ってしまっとすれば…………」
「生きた人間を、無理矢理“死者”にするということですね」
「うん………」
ユウくんは力のない頷きをした。
にわかに信じ難いことではあるが、ハント先輩の手がその証明に近いものとなっている。
あれ………そうなりますと、シェーンハイト先輩は………
皆の顔が一斉に差し迫った表情へと変化する。
「いけない。すぐにでもヴィルを引き上げなくては!!」
先輩の身が危ないと悟ったハント先輩はすぐさま救出しなくてはと『冥府』へ向き直る。
だが先程のこともあってか、思うように手を伸ばせずにいた。
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作者名:フウカ | 作者ホームページ:http naru1
作成日時:2024年1月1日 15時