640話 ページ4
「学年首席、『モストロ・ラウンジ』2号店、配送事業、テーブルウェア販売、ホテル経営……レジャー事業……それから……」
アーシェングロット先輩の声が途切れ途切れになっていく。それからドサリ、と音がした。
どうやら限界を迎えた先輩は糸が切れたようにリドル寮長へ倒れてきた。
「こら、アズール。なんでボクに寄りかかって……あ」
リドル寮長の左肩から小さな寝息が聞こえてきた。
「……寝てる」
「よっぽど疲れたんですね」
眠ってしまうのも無理はありません。
「タコは警戒心が強くて繊細だから、こんなところでは眠れないんじゃなかったの?」
寮長はアーシェングロット先輩の耳元で囁くが、起きる気配はない。
私も少し眠ろうかと近くの机に凭れ掛かっていると、リドル寮長が問いかけてきた。
「A、その……あの時のことなんだが」
「あの時、とは?」
一体どの時でしょうか。
言葉を濁す寮長に私は首を傾げてしまう。そもそもあの時がありすぎてどれのことか分からずにいる。
「だから、その………さっきの収容所内での話なんだが……」
「………………………………!?」
一瞬思考が停止する。だが瞬時に例の記憶が甦った。
それは言わずもがな、リドル寮長に行ったその…………アレである。
「え、えっと、その…………あ、あれはですね………」
自分の犯した恥ずべき行為になんと説明すればよいのか。本人を前にしていることもあってしどろもどろになってしまう。
よくよく考えてみますと、アーシェングロット先輩が言ったように寮長の懐に入っていた解毒薬の存在にいち早く気付いていればあんなことにはならなかったはず。
とはいえ、時すでに遅し。
そうなりますとここは………
「…………その説は本当に申し訳ありませんでした」
アーシェングロット先輩を起こさないよう小声で言いつつその場で土下座した。
もちろん深く頭を下げてだ。
「いや、だからそんな頭を下げなくても……元はと言えば、僕が犯した失態ではあるし」
「ですが……解毒薬の存在にさえ気づいていれば………」
「それを言うなら僕が一番早くに気づくべきだった」
「とはいえ、私は寮長に………」
「分かった。分かったから」
これ以上は埒が明かないと判断したのか、リドル寮長ははっきりと告げる。
「ただこれだけは言う。Aは本当に悪くない。あれはそう………人命救助だ」
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作者名:フウカ | 作者ホームページ:http naru1
作成日時:2024年1月1日 15時