665話 ページ29
ハッ、と目を開ける。
あれ？ここは一体……私は何を……
頬に感じる冷たい土の感触。目の前に広がるのはごつごつとした岩山と不気味に発光する若草色の光。
私はどうしてここに……
起き上がろうと試みるが、思うように力が入らない。少しでも力を加えると、全身に痛みが走り出す。
そうだ。思い出しました。
私はスズキくんを庇って、『チャリオット』から落ちたんだ。道理で体が痛いはずです。
場所からして、大方『冥府』の何処かに落ちたんでしょう。
穴に落ちなかったことが不幸中の幸いと言うべきか。
ですが、このままここにいては危険だ。
鞭を打ってでもこの場を離れませんと。
再び力を入れようと息を吸うが、
「あれ、アンタ生きてたんだ」
「……!!」
ぬう、と頭上に影が差す。イデア・シュラウドだ。
唐突に現れた彼に、思わず息を呑んでしまう。
先輩は気だるそうにしたままこちらを覗き込んでいる。
「矢を放ったアイツを落とそうと思ってたんだけど、とんだ邪魔が入ったばっかりにまたしても計画がおじゃん」
「どうしてくれんの？」と言ってシュラウド先輩は強引に私の胸倉を掴むと、無理矢理体を引き上げた。
しゃがんでいることもあって互いの目線が同じ高さになる。
ひょろっとした体には似つかわしくないほどの力で先輩は言った。
「さっき放ったあの矢、一体何なわけ？」
「………」
何も答えたくない。
無言で睨み続ける私に向かって先輩はさらに続ける。
「じゃあさ、あれはどこで手に入れたの？いちよアンタらの武器は島に来てから全部押収したけど、あんなものはなかったよね」
「………貰った」
相手を睨みつけたまま答える。
「貰った？」
「……そちらの職員から、頂きました。役に立つと言われて」
淡々と素直に告げるが、シュラウド先輩は納得がいかないのかますます顔を歪める。
「はあ？でたらめなこと言ってんじゃねえよ。うちの職員から貰った？そんなはずないだろ。あんな武器今まで目にしたことなかったぞ」
怒りをぶつけるかのように先輩は私の胸倉を掴んだまま激しく揺さぶる。
「アンタのお友達のせいで、大事な弟がどれだけ苦しんだと思ってる。今でもじわじわと拙者たちに地味な痛みを負わせ続けやがって」
マスクで覆われた口元からぎりりと歯軋りが響く。
抵抗できない私を良いことに、今度は私の髪を掴むとグイグイと揺さぶり始める。
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作者名：フウカ | 作者ホームページ：http naru1
作成日時：2024年1月1日 15時
