662話 ページ26
一方のキングスカラー先輩たちはと言いますと、相手のことを気にもとめず、倒せなかったことに不満を抱いていた。
「……チッ！とどめはさせなかったか」
「はぁ、はぁ……でも、今の一撃で多少の足止めにはなったはずです」
魔力を消耗しすぎたためか、バイパー先輩は激しく呼吸を繰り返す。
キングスカラー先輩も自身の杖にはめ込まれている黄玉の宝石に目を遣る。先程の影響により、宝石内は黒い液体で溢れていた。
「ブロットの溜まりかたが普段とは桁違いだ。『冥府』の底から間欠泉みてぇに吹き出して、あたりに蔓延してるブロットのせいか……」
あまり長く留まってはリドル寮長の二の舞になってしまう。
かなり疲労した様子でキングスカラー先輩は頭を抱えたまま、バイパー先輩に呼び掛けた。
「……おい、ここいらで離脱するぞ」
少し呼吸が整ったのか、バイパー先輩も大人しく頷く。
それから先輩は私たちに向かって声を掛けた。
「スズキ、イヌイ。お前たちも乗れ」
「は、はい！」
「分かりました」
力強く返事をするスズキくんの後に私も続ける。
急いで『チャリオット』に搭乗していると、キングスカラー先輩がトランシーバーに向かって状況を報告した。
「―ヴィル！それから管制室のギークども。聞こえてるか？」
『ええ。大きな口を叩いた割りに、撃破には至らなかったみたいね？』
シェーンハイト先輩の挑発的な言い方に、先輩は軽く笑いを飛ばす。
「はっ。これだけ待たせておいて出番を回さなかったら、どこかの目立ちたがり屋に後で恨まれちまいそうだからな」
『それはそれは……お気遣いどうも』
「化粧直しはもう済んだのか？」
『リップを塗り直す時間があれば御の字だと思ってたけど、おかげさまでヘアセットまで完璧よ。フィナーレを飾る準備はできてる。アンタたちは袖に下がって、カーテンコールを待っていなさい』
シェーンハイト先輩の余裕な言い方に先輩は自然とほくそ笑む。
「そりゃァよかった。それじゃあ、前座はここいらで退場させてもらうぜ。『チャリオット』を出せ、ジャミル」
「上昇します。しっかり掴まっていてください」
バイパー先輩の指示に従い、私たちも手摺にしがみつく。
『チャリオット』がゆっくり上昇する中、ふと、視線が無意識にあの兄弟たちへと向く。
『雷霆の槍』の攻撃によってオルトくんが座り込む傍で、兄のシュラウド先輩が心配そうに声を掛けていた。
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作者名：フウカ | 作者ホームページ：http naru1
作成日時：2024年1月1日 15時
