660話 ページ24
そして矢を掴んだかと思えば、駆け足でシュラウド先輩の元へ近づいた。
スズキくん!?一体何を……
慌てて彼の元へと急ぐと、スズキくんは自身のマジカルペンを弓に変化させていた。
それから先程の矢を弦に引っ掛けて、ゆっくりと引いていく。
狙う先はシュラウド先輩…………ではなく、彼の背後に控えている怪物だった。
絶対に外してはならない。
そう言い聞かせるようにスズキくんの目が鋭くなる。
ギリギリと限界まで弦を引かせ、狙いを定めた瞬間、軽く矢を手放した。
矢は勢いよく真っ直ぐに飛んでいき、何の妨害もされることなくオルトくんの胸に突き刺さる。
【!?】
一体何が起こったのか。
そんな言葉を表すかのようにオルトくんは胸に刺さった矢へ目線を落とした時だ。
【あ……あ……ああああああああああああああああァァァ!!!!!!】
怪物の絶叫が『冥府』に木霊する。
突き刺さった胸を押さえ、オルトくんは悲鳴を上げたままその場でのたうち回った。
突然の事態に兄であるシュラウド先輩も戦いを止めてしまう。
「オルト!?どうしたんだいった………ぐっ、があああああああぁぁ!!」
怪物が致命傷を負ったことで、その痛みが直接的にシュラウド先輩へ共有される。
先輩も同様に胸を押さえたままその場へしゃがみ込んでしまう。
【熱い……熱いよおおおおお!!!兄さん……体が熱いよおぉ!!】
熱さから逃れようとオルトくんは必死に助けを求める。
一方で、私は彼らに何が起こったのか理解できずにいた。
怪物の指でへし折られるぐらいの小さな矢が、何故ここまで彼らを苦しめるのだろうか。
熱いとオルトくんたちは訴える。それはまるで轟々と燃え盛る炎に包まれているかのような絶叫だった。
スズキくんは例の矢を瞬時に理解していたようでしたが。
ちらりと隣にいる彼へ視線を向けるが、途端に息を呑んでしまう。
スズキくんは、笑っていた。
満面な笑みではなく、ただ小さく弧を描いている。
まるで安堵したかのような表情に、より一層不気味さが際立つ。
こんな彼は今まで見たことがない。本当に彼はスズキくんでしょうか。
不安が隠せないのか鼓動が激しく打つ。
それでも彼から聞かなくてはならない。
乾ききった喉を振り絞り、恐る恐る彼に問う。
「スズキくん……あの矢は何なんですか？」
か細い声が兄弟の絶叫にかき消されそうになる。
しかしスズキくんはその問いが届いたのか、ゆっくりとこちらへ振り返り応えた。
「ああ、あれは“大炎熱の矢”だ」
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作者名：フウカ | 作者ホームページ：http naru1
作成日時：2024年1月1日 15時
