653話 ページ17
「『冥府』の門は生きた人間にはくぐれない。それがどういう意味なのか……わからないほど馬鹿じゃないないだろ？」
『冥府』の門は生きた人間を拒む。
それはつまり……
「まるで『黄泉平坂』みたいだな」
スズキくんがボソリとその名を告げる。
私は同意、とでも言うように無言のまま頷く。
「そんな……！」
シュラウド先輩の意図を悟ったアーシェングロット先輩は、すぐさまトランシーバーを繋いで言った。
「レオナさん、ヴィルさん！こちらアズール。オルトさんに……『冥府』に近付きすぎると危険だ！リドルさんの髪が白くなり、意識を失いました」
『なんですって!?どういうこと、アズール』
説明しなさいよ、とトランシーバーからシェーンハイト先輩の声が響く。
アーシェングロット先輩は取り乱してはいるもののなんとか冷静な口調で話した。
「彼らに近付けば近付くほど生気が吸い取られ、老いてしまう！」
『!?』
自分達が囮に出たことで、改めて『冥府』の恐ろしさを痛感させられた。
確かに近距離で『雷霆の槍』を放出すれば、確実にシュラウド兄弟を倒すことが可能です。
ですが、彼らの背後には『冥府』の門が控えている。
ここで自身の魔力を流してしまうと容易に生気が吸い取られてしまう。
長期戦となると自分たちが先に倒れてしまうことが目に見えている。
「『雷霆の槍』のエネルギーも、魔力も尽きた。ブロット蓄積量も限界です。僕たちはここまでだ。後は頼みましたよ！」
アーシェングロット先輩は寮長を抱えると、すぐさま『チャリオット』に飛び乗って冥府を後にした。
その頃、アズールの話を聞いたレオナは共に行動するジャミルに問うた。
「今の話、聞こえたか」
「ええ。リドルの件は、『雷霆の槍』の使用で魔力を使い果たしたのも原因かと思いますが……」
「最後の一撃を撃つ時でさえちゃっかり余力を残しているとは、さすがのセコさだなタコ野郎」
すべての魔力を注いだリドルとは違い、アズールはその後のことも兼ね備えてある程度の魔力を残していたのだろう。
ずる賢い、と言いたいところではあるが、
「今回は良い判断だ。もしアイツが力を温存してなかったら……赤い坊っちゃんと2人揃って『冥府』の底へ真っ逆さまだっただろうからな」
今回はそのセコさに救われたな、とレオナは言った。
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作者名：フウカ | 作者ホームページ：http naru1
作成日時：2024年1月1日 15時
