638話 ページ2
「寮長!?」
素早くリドル寮長の元へ駆け寄るのと、崖下を覗き込んでいた先輩も慌てた様子で走って来た。
「リドルさん！まさか、今の戦いでどこかに深手を？」
「大丈夫だ……でも、魔力と体力の消耗が激しい。ブロットもかなり溜まっている……」
苦し気に話す寮長を見て、無意識に彼の杖を見る。杖に嵌め込まれている赤い宝石は、半分ほど黒い液体に浸食されていた。
「アーシェングロット先輩、この近くに休む場所は？」
「マップによれば、あと数階下れば格納庫があります。そこで休憩をとりましょう」
マップを広げた先輩は階段下を指差す。
それを聞いてリドル寮長は頷いて言った。
「ああ。そこなら『雷霆の槍』も充電できるはずだ。行こう」
「リドル寮長、肩を貸しますので」
「すまない……」
「では、代わりに僕が槍を持ちましょう」
疲弊しきっている寮長に肩を貸し、槍を持ち上げた状態のアーシェングロット先輩が先頭を歩く。
先輩は時折後ろの様子を確認しながら下りて行き、数十分後にはなんとか格納庫へ辿り着くことができた。
ガチャン、と格納庫から機械的な音が響く。
その音に合わせて充電ステーションからリドル寮長が出てきた。
「『雷霆の槍』は充電ステーションに置いたよ。でも、フル充電を待つ時間はなさそうだ。1時間ほどしたら出発しよう」
1時間。今までに比べれば短い時間ではあり、それほどゆっくりする時間がないということでもあった。
「念の為、ドアの前には氷でバリケードを作りました。これでしばらくは安心でしょう」
格納庫の入り口には、アーシェングロット先輩が作った分厚い氷の結界が張ってある。
1、2発ぐらいでは破壊されないよう頑丈に造っていた。
「先輩方、備蓄食料です」
「ああ、ありがとう」
「助かります」
格納庫から見つけた備蓄食料を2人に渡すと、私たちはその場に腰を下ろした。
「「…………………………」」
互いに無言状態が続く。
だが、それも一瞬のこと。
「「ぶはぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜………っ」」
「!?」
唐突に盛大なため息が響き渡り、思わず肩を揺らしてしまう。
「もうここから1歩も動きたくない……」
「ボクもだよ……」
限界を迎えたこともあり、2人の口から本音がぽろりと零れ落ちる。
さすがにここで口を挟むと雰囲気を壊しかねませんので、私は敢えて口を噤んでいた。
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作者名：フウカ | 作者ホームページ：http naru1
作成日時：2024年1月1日 15時
