照察 ページ19
〜
しゅるり。
楽屋のソファの背もたれに、無造作に掛けられた薄いアウターのポケットから、何かが滑り出た。
「崇裕、落ちてんで。」
あけましておめでとう、の挨拶の輪から全然帰ってこない背中に、声を掛ける。
「え？何？」
振り返った彼は、へらっと笑ってこちらに顔を向けて、俺の手の中のそれを見た途端、血相を変えて駆け寄ってきた。
「照史、それ、俺の！すまんすまん、」
さっと奪い取られた、「観覧車搭乗券」と書かれた赤い半券。
「HEP行ったん？」
「…あ、うん、その…たまたま、な？」
「…彼女？今おったっけ？」
「ちゃうって！！！………Aや。」
「A？ああ、あのときか。……え、2人で？」
「そうそう、居残りしとったから、息抜きにって思ってん。」
ふうん。
そう返してから、自分の中に残った小さな違和感を反芻する。
ふと目に入った、上気した頰。
飄々として滅多に顔色を変えない同期のこの男が、妙に焦って否定する、彼女の存在。
2人っきりで乗ったという、観覧車。
なんとなく、なんとなくやけど、ある1つの可能性に行き当たった。
分かってしまった、と言うべきか。
けど、ストレートに口にするのは憚られて、冗談のトーンにしたとしても、それをうまく笑いに落とせる自信がなかった。
軽く俯いて、誰にも悟られないように目だけを動かして、前髪の隙間から辺りを見回す。
少し離れて座る淳太くんの視線が、崇裕の握りしめた真っ赤なチケットに深く突き刺さっていた。
「…そうなんや。楽しそやなー！俺も久しぶりに、服でも買いに行こかなあ、あっこに。」
わざと明るめの声で、この場の停滞した空気を大きく掻き回して、うやむやにした。
狙い通り、相方の視線は手元の携帯の画面に移って、その間に崇裕はそそくさと券をバッグにしまった。
人として、同期として、シンメとして。
正しい判断なのか、これまでになく確信が持てなかった。
時計の針が9時25分を指した。
「そろそろ、行こうぜ。」
誰かが声を出して、パイプ椅子と床が擦れる音がして、周りの空気が立ち上がる。
気だるい空気を肩に乗せたまま、B.B.V.の楽屋をのっそりと出て、俺たちはあけおめコンの稽古場に向かった。
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ゆちか(プロフ) - asa258さん» コメントありがとうございます。嬉しくて嬉しくて、昨日はこのコメントをぎゅっと抱きしめて眠りました。いつまででも待つなんて、ありがたいお言葉をありがとうございます。こちらこそ今後も読んでいただけたら幸いです。 (4月7日 7時) (
レス) @page18 id: 8bce07181e (このIDを非表示/違反報告)
asa258(プロフ) - 更新ありがとうございます。ずっと読ませていただいております。心理描写が丁寧で何度も読み返すほど大好きな作品です。いつまででも待ちますので、これからも読ませていただけると幸いです。 (4月6日 19時) (レス) @page17 id: 576d67210c (このIDを非表示/違反報告)
ゆちか(プロフ) - matsuriさん» コメントありがとうございます。大変お待たせしてしまいましたが、matsuriさんの温かいお言葉に励まされ、なんとか続きを書くことができました。稚拙な作品ですが、今後もお付き合いいただけましたら幸いです。 (4月6日 8時) (レス) id: 8bce07181e (このIDを非表示/違反報告)
matsuri(プロフ) - 結構最初の方から読ませていただいています。すごく楽しく読んでいます。無理しない範囲で更新楽しみにしています。 (3月26日 19時) (レス) id: 3f610d2b69 (このIDを非表示/違反報告)
ゆちか(プロフ) - るびぃさん» コメントありがとうございます。私も逆引き寄せの法則シリーズを愛読しておりますので驚きました！あの頃を違和感なく書けているか不安でしたが、懐かしく感じていただきとても嬉しいです。今後ともよろしくお願いいたします。 (2月2日 17時) (レス) id: 8bce07181e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ゆちか | 作成日時：2024年1月27日 6時
