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あの事件からしばらく経って、今でもここにいていいのか迷いもあるけれど、今のところ私はここで生きている。
そして今のところ、山本さんもそんな私に笑いかけてくれている。
病院から帰って、数日もしたら少しだけぎこちなかった関係は以前の私達のように戻った。
その事にホッとしている私の感情は、安堵なのか甘えなのか。
「Aちゃん、お疲れ様〜」
あのあとしばらくは、事務作業などにつかせて頂くことになった。
さすがにまだ、人前に出るのは怖い。
写真整理をしたり、入力作業をしたり。
今日もパソコンと向き合って午前中を終え、お昼休み。
先輩のおばちゃん職員さんが声をかけてくださった。
「お疲れ様です。
あれ、それなんですか?」
その手には、分厚い本。
「これね〜親戚の子が受けたやつ、どんなんかなぁと思って貰ってきたんよ。
Aちゃんやってみる?」
それは、高卒認定試験の問題集だった。
「あ〜…ちょっと見てもいいですか?」
興味本位で手に取り、パラパラとページを捲る。
懐かしい図形と数字の羅列や古文や英文や。
夢中で眺めていると、驚いたふうに言われた。
「Aちゃん、勉強好きなんだ?
そんなに気になるんなら持って帰っても良いよ」
「本当ですか?じゃあ持って帰って解いてみます」
「うん、そしたら今度解答も持ってくるね。
久しぶりに赤ペン先生になれるわぁ」
笑顔でそう言ってくださったけれど、最後の意味を理解出来なくて曖昧に笑った。
別に勉強が好きと言うわけではない。
訂正を忘れた事に気付く。
そのくらいしか、する事がなかったというのが正解なのかもしれない。
でも、嬉しい。
貸して頂いた問題集を、ギュッと抱きかかえた。
数学とか古典とか、もう一生触れられないのかと思っていたから。
ある日突然学校での勉強も奪われたので、その後どうなるかなんて考えてもいなかった。
中途半端に終わった勉強、私はどれだけ覚えてるんだろう。
(早く解いてみたいな)
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かなと - 編集画面の関連キーワード入力の下をよく読みオリジナルフラグをお外し下さい違反です (2019年6月10日 21時) (レス) id: b946a130ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:るる | 作成日時:2019年6月10日 21時