25:Delphinus ページ26
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小さい子みたいに二人で魚に魅入られ時間も忘れて水槽をいつまでも眺めていた。
いつの間にか繋がっていた手。……これは多分、私から無意識の内に繋いだんだろうけど覚えてない。
だけど私も実弥君も振り解こうとしないから、やっぱり水族館の魔法は偉大だ。
「実弥君イルカショー! 17時からだって!」
「ここ濡れるらしいぞォ?」
「じゃじゃーん、タオル持ってきたの」
「周到だなァ。んじゃ行ってみっか」
「やったあ!」
私がフェイスタオルを鞄から取り出すと実弥君は喉を鳴らして笑い、私の手を優しく握り返してくれた。
10分前だったからか、割と人が多い。
塩梅な真ん中の席の空きが少なく、渋々3列目に座った。
「結構濡れるかもなァ、大丈夫か?」
「平気! 実弥君を全力で守ります!」
「ふは、逆だろォ」
子供のように笑った実弥君は、また私の大好きな顔をしていた。
飼育員さんとイルカが出てきて私達はショーに集中する。
濡れる、と言ったものの3列目でも私達の座った席が良かったのか大量の水は飛んで来なかった。
「_ありがとうございました! ばいばーい!」
「実弥君平気? 濡れてない?」
「ん、そこまで。…てお前髪濡れてんぞォ!」
「え、嘘?」
「あーたく、俺より自分守れってんだ」
やや強引にタオルを奪われたかと思うと実弥君は私の髪の滴を優しく拭き取ってくれた。
彼がモテる理由はいくつもあるだろうけど、私は一番に「優しい」をあげると思う。
「ゴムあるかァ? 毛先で服濡れんだろ」
「えっあ…ありがと、」
「ん」
…次に実弥君がモテる理由をあげるとすれば、この「世話焼き」だな。
だってこんなの、みんなにしてたら好きになっちゃうに決まってる。
器用に私の髪の毛をちゃちゃっと結んでみせる。
側面を触れば編み込みにされていた。
「私編み込み出来ないのに…何でこんなに器用なの?」
「妹がいんだよ。覚えさせられた」
「兄弟いるんだ!」
「あァ、6人兄弟。俺が長男」
「えっ!? すごいね、羨ましい」
私はお母さんと二人だけだから、賑やかな暮らしが羨ましい。
寂しい雰囲気を出してしまったのか、後ろにいる実弥君が黙り込んだ。
「……今度、」
「え?」
「遊びに来るかァ? 俺ん家」
「……いいの?」
「あァ。うるせェけどよ」
実弥君は何も聞かない。
その聞かない優しさが私には暖かかった。
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おそらまめ(プロフ) - kさん» k様、過去作品にもいくつか触れて頂いているようで、とても嬉しいです。天才だなんて恐れ多いお言葉です……でも嬉しいです。k様が読みたくなるような作品を今後も作っていければと思っております。ありがとうございます(^^) (6月16日 2時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
k - まさかこの作品がおそらまめさんだったなんて、、、この作品もすごい素敵です!!!!おそらまめさんは天才ですか?? (6月15日 22時) (レス) @page50 id: 5d2f3eba17 (このIDを非表示/違反報告)
yukino(プロフ) - この作品もとても面白いです!!!! 実弥さん最高です!! こんな面白い作品を書けるなんて尊敬します!! (2022年1月17日 19時) (レス) id: b465ac1425 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - 美桜さん» 美桜様、ありがとうございます(^^)もう作者の実弥シリーズの作品だけでそれこそ短編集出せそうですよね(笑)そんな…嬉しい事を言って下さって…。懐かしいキャンパスライフの日々、思い出しますね…! (2020年11月27日 9時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
美桜(プロフ) - ううう、こちらも名作!本出してください!即買します!何回も読み返して、キャンパスライフを思い出してます(^-^) (2020年11月26日 12時) (レス) id: a2ac9ececf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2020年3月27日 0時