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男の話し方が要点をついているというよりも、自分の身に降りかかっていることだと受け止めきれていないからかもしれない。
まるでどこか遠い世界の出来事のように感じる。
実際はAが腰掛けるソファの後ろに、Aのものだというスタンドが浮かんでいるのだが。改めて振り返る勇気はなかった。
男の話を引き継ぐ形で、今度は同級生が口を開いた。
Aがスタンドを使って悪さを企んでいるか、もしくはその被害者だと踏んで戦闘になり、気絶してしまったAを家へ運んだのだと。ここは彼の自宅らしい。
そのときのことを思い出そうとすると、背筋に寒気が走った。
下顎が震えるのを堪えていると、その代わりだとでもいうように、背後のスタンドがかちかちと爪を鳴らす。
「少し話を戻すが。さっきも言った通り、スタンド使いになるきっかけはいくつかのパターンに分かれる。その様子だと、生まれつきではないんだろう。何か心当たりは?」
「……あ、っ…!」
また針のスタンドがAを襲おうとする気配がしたが、瞬時に現れた男のスタンドがそうはさせなかった。
すぐ後ろで起こっていることよりもAの意識を捉えて離さないのは、蘇った記憶の断片だった。
「2週間くらい前、バス停で……雷の怪物が、私を、弓矢で…」
久しぶりの大雨だった。
屋根の下にいたのはAだけ。
ばちん、と音を立てて切れた電球に、最初は遠くで雷でも落ちたのかと思った。
けれど次の瞬間には視界を焼き切るほどの電気が迸っていて、電流に混じって高笑いが聞こえた。
そして、雷の化身は取り出した弓と矢で、Aを……。
体ががたがたと震え出した。まるで悪夢だ。
このときまで都合よく忘れていたのに、何故今になって鮮明に思い出してしまったのだろう。
「…仗助。電話で言った伝えたいことなんだがな。音石明がネズミの数を誤魔化していたのが気になって徹底的に吐かせてみたら、野郎、人間も一人射抜いてやがったぜ。今朝スピードワゴン財団から連絡があったところだ」
「じゃあ、こいつが…」
「そうなるな。やれやれ、探す手間が省けたとでもいうべきか」
男がAの後ろへ顔を向ける。
針のスタンドは、だんだんと強い力でもがき始めている。
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こうもり - あげなすびさん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2022年9月14日 7時) (レス) id: 9309100d6a (このIDを非表示/違反報告)
あげなすび(プロフ) - 面白いですっ...!!これからも応援します! (2022年9月14日 0時) (レス) @page3 id: a4623d5dd3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こうもり | 作成日時:2022年9月3日 22時