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母親はS市内の出版社で記者として仕事に奔走しているし、ピアニストの父親は昼間は音楽教室、夜はバーやラウンジに演奏に行っておりこちらも帰りは遅い。
客観的に今の状態を見たらどうなるか、考えるとなかなか非常自体だ。
親のいない家の中に、一人娘と酔っ払って流血レベルの怪我をした不良(っぽく見える男子学生)が一人。上手な言い訳も出てこない。
そこでAの思考回路が変な音を立てた。
親がいなくて2人きり。事実を述べただけのシンプルな単語が、背徳感に似たよく分からない感情を連れてくる。
具合が悪くて怪我をしていたのだから、家の中で手当てして何がいけないのか。そもそも、友達を呼んではいけないと言われているわけでもないのだから。
ざわざわと胸の奥を撫でられるような感覚を必死に追い払う。
頭はますます回転速度を落としているのに、仗助が身じろぎする感覚だけははっきりと拾い上げた。
「ひ、東方くん。上手くいってないなら、教えてくれないかな…?」
「…それ」
「うん?」
「なんで呼び方もどしてんスかぁ〜。前みてーにふつーに呼んだらいいのに」
前とはいつだ。別の呼び名を使ったことなんてあっただろうか。
疑問符を浮かべながら記憶のページをめくっていたら、おそらくこれだろうというものに思い当たった。
ジョセフ・ジョースター、彼の父親と偶然出会ったときだ。家族の前で苗字呼びは変な感じがして、咄嗟に下の名前で呼んだのだ。
しかし何故、そのときのことを引っ張り出してきたのか。
「今のままじゃあ駄目なの?」
「そっちの方がよくねェ?」
「そうかなぁ」
「俺はそっちのが呼ばれ慣れてんだけどなァ〜〜」
存じています、とつい胸の中で相槌を打つ。
『仗助くん』が女子に人気だったおかげで、クラスが違うのにフルネームまで知っていたのだから。
「それによォ、Aもそっちのが呼びやすいぜ。ひ、が、し、か、た。じょ、お、す、け。ほら、なまえの方が短けーもん。ぜってーそうだぜ〜〜」
どうしよう、レイヴィング・ナイト。
全然酔いが覚めてない。
立派なヘアスタイルに隔たれて顔が全く見えないが、絶対そうだ。間違いない。
宙に浮かぶ分身を見上げるが、冷たい瞳と目が会っただけで、それは再び仗助へ視線を戻した。
なァ、とすぐ側で吐息混じりの声がする。
呼吸の熱さが肌に触れた気がして、口から変な叫び声が出そうになった。
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こうもり - あげなすびさん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2022年9月14日 7時) (レス) id: 9309100d6a (このIDを非表示/違反報告)
あげなすび(プロフ) - 面白いですっ...!!これからも応援します! (2022年9月14日 0時) (レス) @page3 id: a4623d5dd3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こうもり | 作成日時:2022年9月3日 22時