【ジョジョ4部】蠱惑的インクルージョン (ページ25)

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たくさん詰め込んだ袋を無理して運ぶからそうなったんだろう、とその人はすらすら続けた。

気を使われているはずなのに、提案というより命令に聞こえるのは気のせいだろうか。

しかしとっさに反論もできず、Aは落としたものを拾ってベンチへ向かった。残念なことに、野菜のいくつかは傷が入ってしまっていた。

「絵を描いてらっしゃるんですか？」
「まあね。僕はこれでも漫画家でね、リアリティのある作品のためには、観察や取材、スケッチが不可欠なのさ」
「そうなんですね」
「……」
「……」
「…僕が誰か聞かないのかい？」
「聞いた方が良かったですか…？すみません、そういった物を書く仕事をしている方って、素顔を明かしたくない人が多いってイメージがあって」
「そういう奴も一定数いるね。しかし、隠されているものは暴きたくなるのが人の性というものだろう？」

ふむ、と漫画家はAをまじまじと見つめた。

『観察』という言葉に違わずほとんど瞬きもしないので、Aは無意識に呼吸が浅くなった。

「こうして話しているのも何かの縁だ。せっかくだから名乗っておこう。僕は岸辺露伴。さっきも言ったように漫画家だ」
「天崎Aといいます。ぶどうヶ丘高校の1年です」
「…ほう、なるほど」

ヘアバンドで上げた髪がさらりと風に揺れる。
視界に影を作らないための髪型なのかもしれないが、そのために彼の両目がAにもはっきりと見える。

それが目力を弱めないまますっと細められたので、Aはますます息を詰めた。

Aが読むのは小説ばかりで、漫画本を手に取ることはほとんどない。彼の名前にピンと来ていないのはバレバレだろう。
気を悪くしたのではないかと、冷や汗が出そうだった。

「今は週刊誌で連載を持っている。生憎、休載を挟む形になってしまったがね」
「もしかして、その怪我で？」
「ああ。何てことはない、些細なトラブルさ。そう、どうってことはないんだよ」

しかし彼はそのことを言及することはなく、自身の怪我についてさらりと述べただけだった。

左腕や足首にも分かりやすく包帯が巻かれているが、交通事故にでもあったのだろうか。
それなのに外出してまでペンを握っているのを見るに、仕事に対してとても熱心な人らしい。

感心するAは終始露伴の持つ独特の雰囲気に圧され気味で、彼のペースに乗せられていることに気付いていなかった。