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Aの休日の予定は大体決まっている。
普段は手の回らないところまでしっかりと掃除をしたり、冷蔵庫の中身を見て必要な食材を買いに出かけたり。
特に買い物は重要だ。しっかりまとめ買いをしておけば、平日の帰りにおつかいに行くことも減る。

忙しい両親にも休みは存在するが、休日くらいゆっくりしてほしくて、Aは自主的に自分でやることを増やしていた。


(この前のハヤシライス、美味しいって褒められたからまた作ろう)


安く売り出していた食材を喜んで買い込んだら袋がぎりぎりまで膨らんでしまったが、手間を減らすためだと考えれば仕方ない。


よいしょと荷物を抱え直して、バス停までの道を歩く。

初夏に差し掛かり、街路樹は青々と葉を広げている。

公園近くのこの道は景観が良いことに加えて、反対側の噴水広場の方が人気なのでいつも人通りが少ない。静かで落ち着けるのがAのお気に入りだった。


ところが、好きな場所だからと気を抜きすぎたのが悪かったのか。
スピードを出した大型のトラックが近付いてきていると、通り過ぎるぎりぎりまで気づかなかった。


「うわッ…!!」


歩道の奥へ引っ込もうとしたタイミングが悪かった。

エンジン音と風圧に押されて、後ずさろうとした足が縺れる。
おまけに尻餅をついた拍子に玉ねぎやトマトが転がり出てしまった。


「おい、そこの君」


立ち上がろうとする前に、どこからか声がした。

さっきまで目に入っていなかったが、すぐそこの木陰のベンチに、誰か座っている。


「そのまま動かないでくれるかい。スケッチするのに丁度いいモチーフなんだ」


この人は何を言っているんだろう。
Aは歩道に座り込んでいることも忘れてしばし固まった。

Aがトラックに驚いて転けて食べ物をぶちまける一連の流れを、常人離れしたスピードで鉛筆を走らせる彼はずっとそこで見ていたわけだ。

遅れて恥ずかしさがじわじわと込み上げてきた。


「その羞恥と困惑が入り混じる複雑な表情……実に良い。生の人間でないと生み出せないニュアンスだ。ああ、悪いね。もう動いても構わない。お礼にその辺に散らばったあれそれを拾ってやってもいいんだが、生憎あまり早く歩けないんだ。代わりといっては何だが、少しここで休んでいかないかい」

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こうもり - あげなすびさん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2022年9月14日 7時) (レス) id: 9309100d6a (このIDを非表示/違反報告)
あげなすび(プロフ) - 面白いですっ...!!これからも応援します! (2022年9月14日 0時) (レス) @page3 id: a4623d5dd3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:こうもり | 作成日時:2022年9月3日 22時

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