重力と呼吸 (ページ33)

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「こーち最近色気増したよね」

『何、いきなり』

「髪も伸ばしてさ、大人の色気？ちょっと寂しいけど」

ふと隣を見ると、車窓に反射する綺麗な顔

ふんわりと微笑んでいる表情は散ってしまいそうなほど儚い

ビルディングが連なる街の多彩さは、大我によく似合う

…こんなにすぐ近くに居るのに、俺は大我に触れられない

『もうとっくに大人なんだけどね』

興味を無くした耳には俺の声が届かないのか、反応を示さず鼻歌を歌い出す

綺麗な音色に耳を傾けながら時々コーヒーに口を付けていると、ふと感じるモヤモヤ

さっきからずっと垂れ流されている曲は全て、アイツのプレイリストに入っているものだった

気付かない内に、染められていくお前から目を背けたくなる時がある

段々と、日々確実に秀麗さに磨きが掛かっていくお前が悔しいほど好きだ

全部アイツの手によって、なんだけど

絶対に何かあったくせに

何も言ってこないし、何も聞けない俺

綺麗で凛としている姿の中に切なさを感じて、そんな大我という存在も俺の癒しなわけで…

今夜、この瞬間が永遠に続けばいい

「こーち明日何時なの？」

『11時入りだよ』

「そっか。同じだね」

『そりゃ皆で撮影だからな』

「…そうだったね」

悲しそうな声色。曇った表情。

そんな顔するなら、アイツなんか辞めちゃえばいい

俺の方が、お前を笑顔に出来る

「あ…綺麗…」

ランドマークタワーや国際グランドホテル

横浜の景色が見えて、煌めく光たちは大我の瞳に写ってより一層の輝きを放つ

お前を俺だけのものにしたい

「綺麗だね、こーち」

『そうだね』

「たまにはいいな、こういうのも」

車を停めることもせず、そのまま都内に向かって方向を切り替えていく

大我の口から音楽に馴染みきれなかった溜息が零れたのを感じた

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