愛人の痴【Taiga.K】

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「普通は好きな子に中絶なんて危ないことさせないよ」
「そ、なの……」

「大事にしてもらってると思ってたのに、身体目当てだったの悲しいね」
「っん、や、やぁっ」

「身体目当てだとさあ、やっぱ妊娠してる子って嫌なんだよね。俺男だから分かるよ」
「ち、ちが、きっと、ちがう、やだ、やめて…っ」

「Aちゃんは女の子だから、男の気持ちなんて分かんないだろうけど…これが事実なんだよ」
「っぅ、ぅう、ち、ちがうぅ〜〜……」

強く強く抱きしめてくる大我くんをどうにか押しのけようとするが、結局女の私じゃどんなに男の人が華奢でも力では勝てない。
口ではどんなに否定の言葉を吐いても、あんなに優しくしてくれた樹のことを疑う心を見ないふりすることはできなかった。
ねえ樹そうなの？私のこと、そんな目でしか見てなかったの？

「Aちゃんこれおっきいから、そういう人ばっか寄ってきちゃうんでしょ。かぁわいそう」
「や、や、そ、そんなこと、な……」

ちょっと身体が離れたかと思ったら、私の胸を優しく包むように揉み始める。
人より大きいのが嫌で、小さく見えるブラとか大きさを強調しない服を選んでる。
精一杯隠してるのに、この人にだけは隠していない状態をしっかり見られてる。
そのことがどうにも弱みを握られているような気がしてならなかった。

「おっきいよ。初対面でここをジッと見てくる男の人ばっかだったんじゃない？」
「い"やっ、やだぁぁあ〜……た、たいがくん、いじわる…しないでぇ………」

痛めつけるように強く握りしめてくるその手に、痛みを訴えて拳で大我くんの胸板を殴る。
殴る私の手を簡単に捕まえた大我くんは、両手首を掴んで玄関の扉に縫い付けた。
痛々しくドンッと激しい音が鳴る。そして唇を押し付けるようなキスに、呼吸を奪われていく。
大我くんの歯が、私の下唇をガリッと強く噛んだ。じわじわと熱を持つ唇に、液体が垂れる感覚。

「ねえ、寒いよ。お風呂入れてくれる約束は？」

何度目か分からない大我くんとのキス。今回は嘔吐くような鉄の味がしている。
大我くんの妙な空気の読めなさというか、ぶち壊し具合に頭からスーッと血の気が引いてくのが分かる。

「Aちゃん、俺Aちゃんの家に入ってもいい？」

その言葉に『じゅりくんとの約束破る？』という問いが隠されていることは、茫然自失とした私にもちゃんと分かっていた。
ただ如何せん茫然自失と、自棄になっていた。

「………勝手にすれば」

目の前にいる夢にまで見て忘れられなかった人だとか、ずっと優しくしてくれて仲良くしていた大学の友人だとか、全部どうでも、忘れてしまいたいと思った。

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