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『男に言われる二人で飲もうはもちろん、会おうとかも無視』
『ちなみにどこでやったの?はぁ?お前んち?ふーん…』
『じゃあ男を家にあげるの禁止』
トントン拍子に繰り出される樹の言葉を、約束の部分だけ復唱させられる。
全部復唱し終わった時、樹は見慣れた笑顔に戻った。
「わかった?」
と私に聞く樹に「わかった」と返す以外選択肢はない。
これで許してもらえたのだろうか。
もう樹は怒っていないのだろうか。
ぽんぽんと優しく頭を撫でる手に、おそるおそる樹の顔を窺い見る。
「そんな怯えんなよ。俺Aのことが心配なだけだし」
「……でも、怖かったよ」
「怖くしたんだよ」
わざと怯えさせたという旨の発言に、ぶすくれた顔をすれば樹は愉快そうに笑った。
そして膨らんだ私の頬を片手で掴んで、ぷすぅと空気が抜けた後に揺らしてくる。
「男だから男の怖さが分かってんの。なーんにも知らないAに教えてあげただぁけ」
「……ごめん」
優しい樹の声はなんだかいつもよりちょっと甘ったるくて、さっきまで怖かった分優しく喋ってくれてるのかなって考える。
まだ拭っていない頬の涙を、樹の手が優しく拭う。
人差し指の背で拭ったかと思えば、親指の腹で拭って、最終的に掌でぐしゃぐしゃに撫でて塗り拡げられる。
「っさいあく!」
「ごめんて」
とカラカラ笑う樹の手を跳ね除けて、自分の服の袖で拭う。
もう!なんて言いながらごしごしと拭う。
そうしていたら私の腕を掴んで、雑過ぎという声と共にどこからか取り出したティッシュで綺麗に拭いてくれる。
「最初っからそれ出してよ」
「まあまあ。別にいいじゃん」
「よくない!」
段々といつもの調子を取り戻していく私と樹の会話。
低かった樹のトーンが、少し高く明るくなって私はすっかり安堵を取り戻した。
樹にティッシュを貰って鼻をかむ。それらをまとめてごみ箱に捨てに行く。
戻ってくると樹が立ち上がって、私の前までゆっくり歩いてきた。
そして元々赤かったのにまた泣いて尚更赤くなった目元と、鼻をかんで赤くなった鼻先を軽く摘まんだ。
「上書き」
ボソッと樹が呟いた言葉の意味は、よく分からなくて適当に笑って誤魔化した。
「サボっちゃったな〜」
「樹のせいだよ」
「元を辿ればAだよ」
そんなことを言われると、さっきの樹が戻ってくるのが怖くて何も言えない。
「どっか遊びに行く?」
「男の人のそういう誘いは無視じゃないの?」
「俺のことは無視しないでよ」
簡単に己を例外に当てはめる樹はちょっとあざといと思った。
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?(プロフ) - もちもさん» コメントありがとうございます!!そう言っていただけてとても嬉しいです!今ストックがなくなってしまって更新がゆっくりになってしまいますが頑張らせていただきます! (11月7日 0時) (レス) id: c0823c63c4 (このIDを非表示/違反報告)
もちも - 話の内容がめちゃめちゃ私に刺さりまくりで毎回脳が溶けていくような感覚がします笑🫠とっても面白いので続きを期待してます! (11月5日 19時) (レス) @page28 id: e6a943ec70 (このIDを非表示/違反報告)
?(プロフ) - 翡翠さん» コメントありがとうございます!!そんなことを言ってもらえるなんて想像もしていませんでした!😭めちゃめちゃに嬉しいです💕 (11月1日 2時) (レス) id: 53aaf6ae71 (このIDを非表示/違反報告)
翡翠(プロフ) - お話がどタイプすぎて生きる意味が見つかった気がします^^ (10月31日 18時) (レス) @page25 id: 6c0d9e0967 (このIDを非表示/違反報告)
?(プロフ) - さいだーさん» コメントありがとうございます〜!んふふ、二人に振り回されてく展開をお楽しみください!頑張ります〜💪🏻 (10月30日 1時) (レス) id: 53aaf6ae71 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:? | 作成日時:2023年10月17日 2時