トロイの馬 (ページ3)

今日:5 hit、昨日:1 hit、合計:16,449 hit

ページページ3

.

家に帰るとすぐ生暖かい感触が私の唇を襲った。

「にが、」
「お酒飲んだからね」

樹くんこそ、また違う匂いがするね、そう言ったらどんな顔をするだろう。私が男と二人で飲んできたと伝えたら、どんな行動をとるだろう。

.

付き合い始めた日、彼からこんな話を聞いた。
母親は男好きでいつも知らない男のところに行っていたこと、父親は暴力を振るうような人で家ではいつも怯えていたこと。

少し悲しそうな笑みを浮かべながら語る彼を可哀想に思い抱きしめ、私が愛情を注いであげると口にした。

付き合って半年が過ぎた頃、私が浮気を疑い問いただし、言い争いになった。そして彼はあろう事か私の頬を、叩いた。それからは口よりも先に手を出してくるようになってしまった。

遺伝って素晴らしいね。
ほんと親譲りで、なんというか、ウケる

「ずっと一緒にいたい」

私が泣きつきその場は一件落着した。その時は心の底からそう思っていたし、そう言わなければいけないとも思った。

今だって口にしてしまえばきっと樹くんは手をあげる。そして私が泣きつく。お決まりのコースだから最近は口にするのもやめた。

.

狭い廊下を抜けリビングに入ると目に飛び込んできたのは空のお弁当とビール缶二本、そして煙草。今日の出来事を話しながら一緒に片付けをしていく。

ゴミ箱の中に紛れた使った覚えのないソレには触れず、そっと彼を見て呟いた。

「樹くんも飲んでるじゃん」

.