トロイの馬 (ページ1)

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出会いはよくある話だった。

仕事の都合で東京にある本社に移動になった私。今思えば浮かれていたのだろう。若さがもたらす好奇心のために立ち寄った大人の社交場。

「一人で来たの？」

二つ離れた席から聞こえてきた甘ったるい声。さすがの私も馬鹿ではない。どうあしらおうかとほろ酔いの頭で考えながら目線をやる。

「...っ」

案の定こちらを見ていた声の主。薄明かりの中でもはっきりとわかる顔立ち。角張った頬骨とスラッとした鼻筋、その手には煙草が握られていた。少し口角をあげ微笑む彼はもう一度「一人？」と聞く。

「はい」と小さく呟く私。煙草を灰皿に埋め近づいてくる彼。

そこからの記憶は曖昧で、気がついたら見知らぬ天井を見上げていた。少し沈んでいる右側には昨夜の彼の顔。起こさぬよう抜け出そうと体を起こした時に覚えた違和感。あぁやってしまった、直感でそう感じた。

あの日から二年が経ち、私たちは交際に発展し同棲もした。でもね、樹くん。私は知ってるんだよ。私と付き合ってからも他の女と乳繰りあっていたこと。

だけど許してあげる、愛しているから。

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