神に祈らずとも/ラクーナ・トラウト ページ6
授業が終わった後の教室というものは、どことなく落ち着く雰囲気がする。生徒たちの熱で温もり少し澱んだようにも思われるその空気は、授業がひと段落ついただとか拘束から解放された喜びと共に閉じた室内に溜まり続けているようだ。
「……晩ご飯、どうしようかな」
出席記録や生徒たちの提出物を整理していると、無意識にそんな言葉が漏れていた。
セオはわたしの作るものならなんでも喜んでくれるけれど、たまにはお店で買ってくるのもいいかもしれない。通りの菓子屋で売っているキッシュをまた食べたいと言っていたっけ。なんてことをぼんやりと考えながら作業を進めていくと、案外早く終わってしまった。どことなく仕上がりが雑な気もするけれど、それはそれとして。
ふと窓から階下を見下ろすと、部活動に勤しむ生徒を見守るセオの姿があった。手を振ってみたけれど、こちらには気づくはずもなかった。
帰宅してからセオをいじるネタができたのでよしとしよう。
それにしても、わたしたちがこんな都会で教師として生きるようになるなんて。
セオの故郷であるエルバは栄えてはいたけれど田舎の範疇を抜け切らず……そもそも、辺境だったのだから仕方ないけれど、こんな賑わいや大聖堂のような大規模建築とは無縁の場所だった。
そして、わたしは悪魔と人間の混血であり、世界の大半の者は存在すら知らないような少数派の宗教信者だ。こんなわたしを受け入れ、ましてや教師なんていう職に就くことを許すような場所などイヴィル教の出現以前には存在しなかっただろう。
ああ、こんな幸せな生活を送れるなんて。
わたしはイヴィル教の神に祈ったことはない。
それでも、信徒たちはわたしを受け入れてくれた。
わたしの信ずるアスタル教において「神」は存在しない。わたしたちが祈る救い主アスタル様も、ただの悪魔の娘だったという。
わたしはこれからも、「神」に祈ることはないだろう。それでも、ポヴァーヴルのいち市民として、聖クロイツ学園の講師として生きられることを誇りに思う。
わたしを受け入れてくれたこの街で、わたしはわたしの愛する人のために生きていく。
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流離いのsecret(プロフ) - キューブさん» お話拝見しました〜!あたたかく素敵なお話ですね……!ラクーナさんの家族思いが伝わります。ご夫婦のイヴィルに対する気持ちの違いが深いですね……! (2021年9月12日 18時) (レス) id: af1699faf6 (このIDを非表示/違反報告)
キューブ(プロフ) - 更新完了しました!なんだかよく分からない締め方になってしまいましたね… (2021年9月11日 19時) (レス) id: 8222095e45 (このIDを非表示/違反報告)
流離いのsecret(プロフ) - to:叶様 うちの大司教を使って頂きありがとうございます〜!寮と名前を言い当てるくだりは、前ページのお話を汲んで下さったのでしょうか!無宗教であるカナアさんにとって大切な宗教が見つかると良いなと思う素敵なお話でした! (2021年9月5日 10時) (レス) id: af1699faf6 (このIDを非表示/違反報告)
流離いのsecret(プロフ) - 本編始動にあたって、一編お話を書いてみました!皆様も是非執筆してみて下さいね!編集する際は此方に報告をお願い致します! (2021年9月2日 21時) (レス) id: af1699faf6 (このIDを非表示/違反報告)
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