44 ページ44
･
卒業式、久しぶりに足を運んだ大学。朝早くから着付けをしてもらったる袴は可愛さよりも苦しさが勝っている。タオルとか詰められるの初めて知った、動きづらい、とかもう本当に自分で嫌になるくらい可愛くない感想。それでも鏡に映る私はいつもよりずっと華やかだ。
卒業式の本番は終わってからだったと思う。スーツを着た北斗はいつも以上に女の子からの視線を集めていて、「友達のところ行く！」なんて言い訳をして隣から逃げ出してしまった。…あんな熱視線の中でヘラヘラ隣に立っていられる程神経は図太くないよ…
女の子達がほっとかないのは北斗だけじゃなくて、もちろん樹の周りにもたくさんの女の子達がいた。黒いスーツは樹によく似合っていて、胸元で綺麗に締められたネクタイ。「A結び方わかんねーんだけど」なんて困り果てていた樹の顔を思い出してしまった。…今日は誰に締めてもらったんだろ、
「お待たせ、…A？」
「あ、ごめん。なんか袴苦しすぎてボーッとしちゃった」
「……なーによ。せっかく可愛いのに色気ないね」
「うるさいな。飲み会いかないの？」
「行かないよ。…友達も多くないし」
Aと約束してるし。散々恥ずかしいことを言ってたくせに今更照れてる。そんな北斗が可愛らしい、なんて思ってしまう。私なんかのどこがいいんだろ、とも思うけど。
「ご飯、食べに行こっか」
「……うん。着替えてからだから夜でもいい？」
「もちろん。ちゃんと来いよ」
「何言ってんの、当たり前でしょ」
俺も帰って着替えるって言う北斗に手を振って、それからもう一度だけ振り返って遠くにいる樹の背中をみつめた。今日で樹と会うのは最後かもしれない。そう思うと足が急に動かなくなる。自分の意思、なのに変なの。
ブリーチされた金髪はしっかりと黒髪になっている。派手なピアスも今日はつけてない。見慣れない、知らない人みたいな樹。見つめすぎたのかもしれない、振り返った樹と目が合った気がする。すぐに目線を逸らして慣れない袴で帰り道を歩く。…いつもより歩みが重いのは着慣れない袴と詰められたタオルのせいだ。絶対。
･
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1941人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
かん(プロフ) - はじめまして。クズでもどこかきゅんきゅんしまくりでした笑 (2022年3月25日 15時) (
レス) id: 08214fe36c (このIDを非表示/違反報告)
まめこ(プロフ) - mi.さん» 返信が遅くなってすみません！そう言っていただけて嬉しいです(;_;)！嬉しいお言葉ありがとうございました！ (2022年3月11日 13時) (レス) id: d8cb6056f0 (このIDを非表示/違反報告)
mi.(プロフ) - まめこさんのお話すっごく面白いです…！何度も読み返していたので、49話読み終えて涙が止まりません(；；)最後までお話楽しみにしてます。 (2022年3月2日 23時) (レス) @page49 id: f783054b71 (このIDを非表示/違反報告)
まめこ(プロフ) - 甘さ控えめ太郎さん» はじめまして！私もcaramel読ませていただいております…！リアルな大学生感と切ない関係性、たまらなく大好きです🥺私も酔っ払った🐻さんに呼び出されたい人生でした… (2022年2月5日 7時) (レス) id: 08ec96d6c5 (このIDを非表示/違反報告)
まめこ(プロフ) - Nappyさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます🙇♀️励みになります…！完結までお付き合いいただけたら有難いです…！ (2022年2月5日 7時) (レス) id: 08ec96d6c5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：まめこ
| 作成日時：2021年11月29日 1時
