憂鬱な夜

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樹は本当によく私のアパートを訪ねてくるようになった。「暇だからいく」なんて決定事項のように言われれば断ることなんてできなくて。時には引越しの手伝いをさせたりもしたのに、嫌な顔1つしない樹はどこかで誰かと入れ替わったのかもしれない。


「……荷物まとめ終わったー！」

「まじで俺のおかげだろ。感謝しろよ」

「してる！ありがと！」

引越し屋さんが来る3日前、まとめ終わらない荷物を前にして「馬鹿じゃねーの」って呆れた顔で手伝ってくれた樹。そのお陰で私の持っていく予定のもの達は綺麗に整頓されていた。樹んちいつも綺麗だもんな…


「樹は？引越しの準備終わってんの？」

「俺はおまかせパックにしたから。ギリまでそのまま。」

「うわー！高いやつじゃん！さすが大手に勤める人は違うねー」

「煽ってんなよ。お礼しろお礼」

少し悩んで、「引越しパーティしよ」と提案した。これが本当に本当の最後。もう私も樹も引っ越して、学生の時みたいに会えなくなる。むしろもう会わないって決めているんだから。忘れるためのきっかけはきっとここが適切だ。随分前から決めていたこと。

「……樹んちで。」

ほら、家もうなんもないからさ。辺りを見渡して笑えば「いつ？明日？」意外にも前向きな返事が返ってきた。めんどくせー、とか言わないのか。ってちょっとびっくり。


「明日、今日のお礼に何かしら買ってくね」

「おー。…早めに来いよ」

「うん。なんか久しぶりだなー、樹んち」

「Aが面倒くさがってこないからだろ」

「……楽しみだなー」



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樹のアパートは前に来た時からなんにも変わっていなかった。本当にこいつ引っ越すのかな


「樹、…まじでなんにもしてないんだね」

「引越し屋さんが頑張るっしょ」

「うわー。…あ、ゲームもそのままじゃん！」

「当たり前だろ。俺の最近の生きがいだかんな。まじで朝までやって、いつの間にか寝てんの」

「……だからそんな不健康そうな顔してんの？ご飯食べなって。死ぬよ。餓死するよ」


大袈裟って笑うけど、手首とか私より細いじゃん。買ってきた袋からおつまみとお酒をたくさん出して「全部食べていいからね！」そう言えば「Aじゃねーんだから無理だわ」なんて。心配してるのに憎たらしいこと言うなよ

「珍しいな、Aがそんなの飲んでんの」

そんなの、と指さすのは可愛いパッケージのお酒。いつもらガツンと9%！みたいなすぐ酔えるお酒しか飲まないから。そりゃ変だ

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