憂鬱な夜

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居酒屋をでて、アパートに向かって歩き出す。大学近くだからかたぶん同じ学校の子たちもたくさんいるし、繋がれている手がすごく。居心地わるい。目立つ彼に視線を送る女の子たちももちろんいて、その中の何人くらいが所謂好意というものを彼に向けているんだろう。



「俺さー、Aちゃんと仲良くなれて良かった」

「……あ、うん」

「でもさ、もっと仲良くなりたいんだよね、俺」

握られた手に力を込められる。「Aちゃんち寄っていってもいい？」なんて、そういう意味なのかなっていうのはすぐわかった。でも。ヘラ、と笑って私の手を引く彼は好意のない相手にこんなことをして疲れないのかな。


「……田中くんも、もったいないよ」

思わず口をついて出た言葉は、この前彼が私に言ってくれた言葉だ。ぽかん、とする田中くんの手を離して「やっぱり送ってくれなくて大丈夫」と笑った。

「Aちゃん？」

「好きじゃない女の子にまでさ、そこまで優しくしなくていいよ。田中くんの時間も、気持ちもなんかもったいないでしょ」

「…普通に好きだけどね。Aちゃんのこと」

「普通、なんて付けないとダメなのは違うよ」

「……やっぱり真面目だね、Aちゃん」

「うん。…田中くん、気をつけて帰ってね」


1人で帰る道、少しだけ寂しい。友達の友達っていう関係性。彼は何人の女の子をこんな風に連れ帰ってきたんだろう。そういうことに奔放なのは噂で聞いていたし、別にガッカリとかそういうのじゃない。ただ少し、寂しいだけだ。




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